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東京大学大学院
総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系
理学系研究科 生物科学専攻 兼任
渡邊雄一郎 栗原志夫 研究室
渡邊雄一郎
栗原 志夫
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研究テーマ
研究テーマ
生物は環境の変化を感知し適応しながら生きています。そして一つの場所に定着して生きていく植物を取り巻く環境は実は絶えず変化しているのです。例えば一日のなかであっても光環境、温度、水環境の変化が起きています。さらに一年を通して季節による変化も降りかかります。加えて、地上から、また地下部から病原体の侵入も起きるのです。そのような目まぐるしい変化のなかで、“ある時の遺伝子発現のパターン”は置かれた環境が変化するとむしろ不適切な状況を生み出しかねません。このため、常に同じ遺伝子セットの恒常的発現だけでは生き延びていけず、環境変化を凌ぐための新たなパターンの遺伝子発現と不要な分子の分解を行う必要があるのです。
当研究室では植物を扱いながら、発生過程でみられる遺伝子発現の変化、さまざまな環境変化への応答がどのように行われているのかに注目し解析しています。そのときどきで植物体の地上部と地下部との間で重要な情報伝達があることが明らかにされてきています。細胞小器官と細胞骨格、種々のRNA顆粒との関連も解析の対象にしています。種子も含めた初期発生や環境応答、微生物相互作用、また日周性など再帰性があるリズム変動などに解析を加えています。その過程にはにはRNA分解系、RNA品質管理やサイレンシングの機構などが関与していることが明らかとなってきました。研究を通して遺伝子やタンパク質のみならず、多くのRNA分子種にふれながら、生物現象を解析しています。
表現型と遺伝子型の接点を探るRNA研究
an old but a new molecule linking phenotypes and genotypes
- that is RNA
我々はマイクロRNA(miRNA)やmRNAの発現、プロセッシング、生成、移行、細胞質での標的mRNAの抑制機構について研究を進めてきました。 そのなかで日常的に広く他分野や海外の研究者と議論・交流を行っています。
TOPICS
1.植物における小分子RNAを介した遺伝子発現制御の意義
2.陸上植物の多様性と遺伝子発現制御
3.ストレスに応答して現れるRNA顆粒の解析
4.シュートから根系へのコミュニケーションによる遺伝子発現制御の機構
1.植物における小分子RNAを介した遺伝子発現制御の意義
― small RNA analysis
我々のグループはシロイヌナズナの研究を中心に、植物の遺伝子発現制御にsmall RNAと呼ばれる非常に短いRNAが重要な役割を持っていることを明らかにしてきました。その中のマイクロRNA(miRNA)と呼ばれる内在性のsmall RNAは自身と相補性の高い配列を持つ別の遺伝子mRNAを標的として発現を抑制します。miRNAは初めにヘアピン二次構造を取るような前駆体として転写され、DICER-LIKE 1 (DCL1)と呼ばれるタンパク質によって正確に20-22塩基に切断されて誕生します。合成されたmiRNAはARGONAUTE 1 (AGO1)というタンパク質を中心に複合体を作り、標的mRNAを切断するのです。こうしたタンパク質のいずれの変異体も致死などの重篤な表現型を示すことからも、miRNA-標的mRNAの抑制関係が発生を正常に進めるために必要不可欠であることがわかります。シロイヌナズナのARGONAUTEタンパク質にはAGO1からAGO10まであり、その機能分担についても解析してきました。しかしまだ未解明の部分が多くある研究領域です。
small RNAは転写レベルでのクロマチンの機能制御にも寄与することがわかっています。DNAとヒストンからなるクロマチンは、メチル化などの修飾を受けることで後天的な制御を受けていることが知られています(エピジェネティックな制御)。植物では小分子RNAによるDNAメチル化機構が存在し、トランスポゾンなどのリスク因子が活性化するのを防ぐことで、ゲノムDNAが安定的な状態を維持できるよう制御しています。転写レベルでのサイレンシング機構はまた外来性遺伝子の発現レベルも制御しており、DNAメチル化機構のメカニズムを明らかにすることは植物ゲノムの安定化維持機構の理解につながるだけでなく応用的な面でも重要な知見を得ることができると考え研究を行なっています。
2.陸上植物の多様性と遺伝子発現制御
― evolution and gene regulation
ゼニゴケは苔(タイ)類に属す陸上植物の一種です。私たちのよく知っている被子植物と同じく陸上植物に分類され、陸上植物の進化上の基部に位置すると言われています。その形態が興味深いなどの理由から古典的な植物学において多く用いられてきたゼニゴケですが、近年京都大学大学院生命科学研究科の河内孝之教授を中心としてゲノム解読が進められ、ゲノム時代の分子遺伝学的なモデル生物として再び注目されています。
陸上植物のmiRNAの中にはコケ植物から被子植物まで、種や分類を越えて普遍的に存在するものがあることを我々のグループは明らかにしました。私たちはそれらのmiRNAがゼニゴケの発生においてどのような役割を果たしているのかを解明することで、陸上植物の進化の過程でmiRNAの機能がどのように保存され、どのように変遷してきたのかを明らかにしたいと考えています。
3.ストレスに応答して現れるRNA顆粒の解析
― plant - abiotic stress interaction
mRNAは細胞内で単独でいるわけではなく、RNA結合タンパク質と共にRNA顆粒という凝集構造で存在することが知られています。RNA顆粒は細胞小器官と同様にほとんどの生物が持っているにも関わらず、それぞれの詳細な機能は未だ謎に包まれています。我々が注目しているのはProcessing body (P-body)とStress granules という2種類の細胞質顆粒です。
P-bodyはRNAの分解に関与するタンパク質を多く含むRNA顆粒です。中でもRNA分解の中心的役割を担うのがDCP1とDCP2という2種類のタンパク質です。最近の解析からDCP2タンパク質が急激な温度変化というストレスに応答して、P-bodyに集まることが分かってきました。興味深いのは、これらのタンパク質が一様に集まるのではなく、ストレスごとに違った反応を見せるということです。この結果は様々な環境変化に適応するため、これらのタンパク質が状況に応じて特有のP-bodyを作ることを示唆しています。現在はこのP-bodyの変化がRNA分解にどのような影響を与えるのか、それが植物の環境への適応にどう関与しているのかを解析しています。
一方、Stress granulesは翻訳抑制に関わるRNA顆粒として知られていますが、植物ではほとんど解析されていません。現在、植物におけるStress granulesや翻訳抑制の重要性を調べるために、様々なアプローチによる解析を進めています。
4.シュートから根系へのコミュニケーションによる遺伝子発現制御の機構
― shoot to root communication
種子植物の大半は大地に根を張り、体の固定や土壌から水や無機塩類をより多く取り込むために根系を広げていきます。この根の広がりを担うのが根の先端部にある分裂領域(根端分裂領域)であり、根端での細胞分裂と細胞伸長が根が土壌中を伸びていく原動力になります。この根端分裂領域の維持・制御には非常に多くの遺伝子発現制御が関わることが知られ、その制御には植物ホルモンがシグナル因子として寄与することがよく知られています。私たちは植物ホルモンの中でもステロイド骨格を持つブラシノステロイド(以下BR)に着目し、周辺環境が根端でのBR生産制御にどのように影響を与えるのかについて取り組んでいます。
実験で用いられるシロイヌナズナは多くの植物と同様に光の有無で根の伸長も変わることが知られます。しかし、BR合成経路で最重要な酵素の一つであるDWF4を完全に欠いた
dwf4-102
変異体では光の有無に関わらず根の伸長が同じレベルで低下します。この点に着目し、光環境が根端でのBR生産を制御するのではないかと考えてDWF4-GUSという融合タンパク質を
dwf4-102
変異体に導入することでDWF4遺伝子としての機能回復とGUS遺伝子としての発現組織が可視化できる植物を作成しました。このDWF4-GUS植物を用いて地上部での受光が根端のDWF4蓄積を誘導する一方、根だけを露光させても根端でのDWF4の蓄積は暗下に放置した状態と同じレベルに留まりました。このことから地上部で光を受ける事で何らかのシグナルが根端まで運ばれてDWF4の発現・蓄積を誘導しBR生産を介した根の成長制御を行っていると考えました。種子植物は複数の光受容体を使い分けて周辺環境の変化などを認識しており、どの光受容体が根端におけるDWF4の蓄積パターン制御に関わるのかについて解析を行いました。そして青色光が根端でのDWF4の蓄積に重要であること、青色光受容体の中でもCRYPTOCHROMEが主要な働きを持つこと、一方で赤色光受容体であるPHYTOCHROME Bが補助的に関与することなどを明らかにしました。
現在は地上部の光受容体から生じたシグナルと根端領域を繋ぐシグナル因子について研究を進めると同時に、光環境が与える根端領域でのBRシグナリングへの影響について研究を進めています。
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