含フッ素高分子の理解と材料応用

含フッ素高分子は炭化水素系高分子とは異なる特異な性質を示す。炭素―フッ素結合は大きな双極子モーメントを有するが、含フッ素高分子は双極子同士の相互作用により凝集することで低極性の集合体を形成し、撥水・撥油性をはじめとする様々な特性や機能を発現する。その一方、一部の両親媒性有機フッ素化合物の健康上への懸念から、規制により使用可能なモノマー種が制限されつつある。そのため、含フッ素高分子が示す特性を分子論的に理解し、材料としてその潜在能力を活用することが重要である。私たちは、新しい含フッ素高分子を設計し、精緻な構造・物性解析に基づき理解するとともに、企業と連携して工業材料から医療関連材料にわたる幅広い応用を目指している。

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低いフッ素含有率で高機能を示す部分フッ素化ポリマーの開発

フッ素化ビニルエーテルと[1.1.1]プロペランからなる新規共重合体を合成しました。この高分子を製膜して得られた薄膜は、フッ素ユニットを40 mol%しか含まないにも関わらず、代表的な全フッ素高分子であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)よりも高い撥水撥油性を示すことが分かりました。

Highly Alternating Copolymer of [1.1.1]Propellane and Perfluoro Vinyl Ether: Forming a Hydrophobic and Oleophobic Surface with <50% Fluorine Monomer Content
Okuda. M.; Akiyama, M.*; Funahashi, K.; Masuda, J.; Kohata, A.; Nakagawa, S.; Kashiwagi, K.; Sugiyama, N.; Okazoe, T.; Kawaguchi, D.*
ACS Macro Lett. 2024, 13, 1383–1389.


機能性フッ素ポリマーの開発

環状のフッ素骨格を有した新規ポリノルボルネンを合成しました。得られたポリマーは有機溶媒への可溶性を保持したまま光通信等の光学デバイスに求められている高透明性、高耐熱性及び低屈折率性を示す事が分かりました。また、置換基の嵩高さが物性に対して重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

Polynorbornenes Bearing Cyclic Fluoroalkyl Side Groups for Achieving High Glass Transition Temperature and Low Refractive Index
Uno, M.*; Sugiyama, M.; Okazoe, T.; Kawaguchi, D.* Macromolecules 2025, 58, 3221–3230.


汎用的なフッ素ポリマーの中間原料であるヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)をRuppert-Prakash試薬(TMS-CF3)と共重合することで、多数のトリフルオロメチル基を分子鎖に組み込んだ含フッ素ポリエーテルを合成しました。得られた高分子は、PTFEよりも低い臨界界面張力を示しました。

Synthesis of Crystalline CF3-Rich Perfluoropolyethers from Hexafluoropropylene Oxide and (Trifluoromethyl)trimethylsilane
Koyama, M.; Akiyama, M.*; Kashiwagi, K.; Nozaki, K.; Okazoe, T. Macromol. Rapid Commun., 2022, 43, 2200038.



フルオロアルキル鎖が示す特性の解明と分子論的な理解

両末端にフルオロアルキル基を有する直鎖ポリエチレンを合成し、末端基が結晶性高分子であるポリエチレンの凝集構造(結晶ラメラ)にどのような影響を与えるかを調べました。フルオロアルキル基の長さが長いほど末端基の凝集が顕著になり、結晶/非晶界面における結晶安定化と、薄膜における表面偏析と表面自由エネルギーの低下を引き起こすことが分かりました。

Fluoroalkyl Chain End Groups Regulating Crystal/Amorphous Interfaces of Semicrystalline Polyethylene Films
Tashiro, K.; Oda, T.; Mayumi, K.; Ikeda, O.; Koganezawa, T.; Hommura, S.; Okazoe, T.; Kawaguchi, D.*
Macromolecules 2025, in press.