含フッ素分子の特性を活かしたドラッグデリバリー剤創出

生体は水素原子とフッ素原子の大きさの違いを識別できないことが知られています(ミミック効果)。また、含フッ素構造は疎水性、脂溶性、代謝を受けにくいなどの特異な性質を示します。 本研究ではこれらの含フッ素分子のもつ特徴を組み合わせて、あたらしいドラッグデリバリーシステムの開発をめざしています。


細胞膜透過性を指向した生体分子の合成と応用

 標的分子に対して高い特異性と親和性をもつペプチドやタンパク質、核酸などは、従来の化学合成医薬品と比べて副作用の恐れが少なく治療効果が高い分子標的薬として期待されます。 しかしこれら親水性の高い物質は、細胞膜透過性が低いという大きな問題点があり、細胞内の疾患標的に作用させることは困難です。 そこで当研究室では、剛直かつ高い疎水性を示し、細胞膜リン脂質との相互作用が強いと期待できるフッ素を多く含む置換基(RF基)の導入により、生体分子の膜透過性を向上させる戦略を立案しました。

 細胞内ではたらくペプチド医薬の創製をめざし、側鎖に長鎖RF基を有するアミノ酸の実用的な合成法を開発し、それらを有するペプチドの合成に成功しました。 HeLa細胞を用いた細胞膜透過性試験の結果、長鎖RF基の導入によりペプチドの細胞膜透過性が向上することを見出しました。


 また、細胞内ではたらく核酸医薬の創製をめざして、RF基を有するオリゴヌクレオチドを合成しています。 共焦点顕微鏡を用いた観察により、複数のRF基を導入したオリゴヌクレオチドが細胞内によく取りこまれることを確認しています。