手記
東原和成 ┃ International Symposium on Olfaction and Taste┃ 2012年6月23-27日
International Symposium on Olfaction and Taste (Stockholm, Sweden)
ISOTは、世界の三大化学感覚(味と匂い)の学会であるJASTS, AChemS, ECROが、順番に担当して4年ごとに開催する学会である。今年はECROが担当し、スウェーデンはストックホルム、セントラル駅の近くにできたばかりのコングレスセンターで開催された。第一回のISOTが50年前にストックホルムで開催されているので記念すべき大会である。私自身、ストックホルムは、7年ほど前、ノーベル財団のフォーラムで訪れているので二回目である。森と水の都、北欧のベニスといわれるストックホルム。大会が開催された6月末は、夜10時過ぎまで明るく、朝は3時くらいに日が昇る白夜である。卒業生の福田さんがカロリンスカ研究所で家族とがんばっているので、学会のはじまる前日にストックホルム入りし、久しぶりの再会を果たした。大会長は、昆虫の生態と化学感覚で著名なBill Hansson氏。昆虫の嗅覚受容体研究で競合して以来親しくなり、お互いに研鑽しあっている仲である。今回は、800人近くの参加者がいたようであるが、圧倒的にヨーロッパのひとが多いなか、日本はアメリカに次ぐ三番目で100人強。しかし、アメリカも100人台と意外と少ない。
今年のISOTには研究室からたくさんのポスター発表をしようと思っていたが、柏キャンパスから農学部へ移ってからまだ研究室の立ち上げ段階ということもあり、また、まだ発表できないというホットなネタもあるということもあり、今回は私の研究室からのポスター発表はゼロ。最近二ノ宮研から学振員として来た堀尾さんが二ノ宮研ネタで発表しただけである。一方、私はシンポジウムのほうで、Chemosensory receptors in non-chemosensory tissuesという題目で、メリーランド大学のSteven Mungerと一緒にオーガナイズして、私も発表した。味覚では胃腸やすい臓、嗅覚は精子、筋肉など、化学感覚組織以外の化学感覚受容体に関する研究は最近ホットである。私が発表した内容は、最近投稿中である、嗅覚受容体のナチュラルリガンドの探索というものである。また、発表の最後に、鼻以外に発現している嗅覚受容体の内在性リガンドの同定を少し織り込んだ。初日ということもあり、小さい会場が満杯になり、その後のいろいろなひとからのフィードバックを考慮すると、かなり評判はよかったようだ。私以外の日本人でシンポジウムのオーガナイズに関わったひとは、味覚のほうで二ノ宮先生と、味の素の鳥居さんである。味の素は、シンポジウムの金銭的サポートをしたり、最近のNatureの増刷の味覚特集のスポンサーになったりと、鼻息が荒い。
基調講演(Prenary lecture)は、初日がCharles Zuker、そしてCori Bargmann, Rigard Ignell, Linda Buck, Kristin Scottと毎日ひとりづつ。Charlesは相変わらず切れ味のよいトークをしたが、最近の高次脳の結果に関しては議論がある。しかし、オプトジェネティクスを使った新しい実験結果を見ると、話を単純化しすぎてはいるものの、方向性は間違っていない。Ignellは、IC-E3(アイスキューブ)という昆虫の化学感覚研究を推進させるヨーロッパの大型プロジェクトのトップをやる若手で、プロジェクト紹介もかねての基調講演である。どういう植物環境で育つか、あるいは交尾したかなどで、その後の匂いに対する脳応答が可塑的に変化するという研究である。Lindaは相変わらず論文となっている話ばかりであるが、やはり嗅覚研究では欠かせないBig shotであるからしょうがない。Coriは時間軸を考慮した脳神経回路の応答に関する膨大な結果とともに、相変わらずの頭の展開の速さを披露。Kristinはハエのppkファミリーの水およびフェロモンセンシングの仕事に加えて、ドーパミンによる満腹制御についての新しい結果を発表。その他、いろいろなシンポジウムがあったが、やはり最近は高次脳の神経回路の話と感覚の可塑的な調節・制御に関する話題が多い。 また、Billがオーガナイズしたせいか、ポスターも発表も全体的に昆虫が多い。ポスターも450ちかくのうち、三分の一くらいが昆虫だったのではないかと思う。
バンケットは、昔処女航海で沈んだ船が展示されているVasa博物館。私はFrank Zufall夫妻, Stuart Firestein, Charles Greer, Linda Buck, Reiner Freidrich, Robert Anholtらとテーブルを囲んだ。せっかく国際学会に来たのにと思うが、相変わらず日本人は大御所の先生を囲んで固まっている。まあどこの国もそれなりに固まるが、若い諸君は、ぜひ思い切って外国人の輪にはいってほしいなと思う。その経験があとで活きてくるから。次回のISOTは正式に日本と決定した。化学感覚研究の最先端をいく多くの若手が太平洋を越えてきてもらえるように、魅力のあるプログラムを考えたいものである。それにしてもスウェーデン料理は塩辛い。北欧は、シュールストレミングなど魚の塩漬けなどで有名であるが、なんでも塩辛い。毎度のことであるが携帯味噌汁をもっていったものの、味噌汁も辛いのであまり役に立たない。数日したら、とにかく日本食が恋しくて早く帰国したくなった。それにしても国際学会は情報交換がたくさんできて今後の研究のために有意義なものである。
平成24年6月28日(機内)