手記
東原和成 ┃ Janelia Farm Conference: Form and Function of the Olfactory System ┃ 2010年5月23-26日
Janelia Farm Conference:
Form and Function of the Olfactory System
(HHMI, Janelia Farm, USA)
米国にはHoward Huge Medical Institute (HHMI)というとんでもなくリッチな財団がある。全米で数百人くらいの選ばれた研究者が特別な予算(年間数千万円程度)をもらって研究を進めることができる。HHMIのinvestigatorになることは、予算のメリットだけでなく、研究者としてのステータスでもある。5-6年ごとにrenewalの審査があり、成果がでていないと容赦なく切られる。そのHHMIがお金の使い道を考えて作ったのがJanelia Farm研究所である。有名建築家がデザインしたキャンパスと建物は、ガラスがふんだんに使われた近未来の雰囲気をかもしだし、映画のなかにいるようだ。開放感のある空間のなかで、研究者たちがのびのびと研究をしている。もっともガラス張りばかりなので、ノーベル賞学者のEric Kandelが訪問したときにガラスに顔をぶつかってしまって鼻を怪我してしまったので、それ以来、すべてのガラスに目印がつけたらしい。充実した共通機器とテクニシャンの管理体制はしっかりしており、また、ハエとマウスのfacilityは完璧で、ロボットがハエの餌変えとマウスのケージ洗いをする。マシーンショップも充実しており、作ってほしい実験装置を作ってくれる。昼食と夕食も研究所で働いているひとがみんな集ってディスカッションに華が咲く。ジムやバーもあり、至れり尽くせりの設備である。
そんなJanelia Farmが、研究者達への活性化のためにやっているのが、Janelia Farm Conferenceである。月に一回ほど開かれており、60名ほどの厳選された研究者が集まって、未発表の成果を発表して議論しあう。Conferenceのテーマは、Janelia Farmから半分トップダウン的に決められるようで、今回は、HHMIのinvestigatorになったLeslie Vosshallがまかせられ、co-organizerとして私に白羽の矢がたったというわけである。テーマは、Form and function of the olfactory system。人数は、invited speakersが25-30人程度で、招待講演者に使える旅費は20000ドル。Leslieと私は、1年ほど前に、米国、ヨーロッパ、アジアとそして男女比のバランスをとりながら、分野と予算の枠を考慮しながら、invited speakersのリストを作成した。日本人で良い仕事をしているひととして、坂野先生、吉原先生、尾崎先生、そしてハーバードでがんばっている内田君を選抜した。結果的には、Richard Axel, Linda Buck, Cori Bargman, Peter Mombaerts, Stuart Firestein, Liqun Luoなどそうそうたるメンバーが集まり、昨年のKeystone Symposiumを彷彿させる。
・・とここまで書いたのだが、さすがにオーガナイザーの数日間で疲れきったのか飛行機では爆睡し、帰国後は講義とかで忙殺され、半年間原稿が眠ってしまった。ようやくHPにアップである。今、何がホットでどんな成果がでそうになっているのか手に取るように感じることができた。また、サイエンティストとしてはもちろん、オーガナイザーとしても政治家としても卓越したLeslieと一緒に準備することによって、いろいろなことを学べたことも貴重な経験となった。内容的なことは、クローズであるが、日本味と匂学会誌に掲載されている宮坂君の報告記を参照されたい。
平成22年4月26日(シカゴ空港トランジット中)