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年頭所感

┃ 平成26年元旦 ┃ 東原和成

平成26年新年にあたって

新年あけましておめでとうございます。今年の年末年始は暦通り休暇をとりました。年末には映画「永遠の零」を見て涙活をして、元旦には初すべりのスキーをして雪見温泉を楽しみ、ゆっくり英気を養ってきました。本当に久しぶりにいい映画を見ました。戦前生まれの私の両親は病院と施設暮らしです。戦争を覚えている世代がどんどん少なくなっています。これからの10年は、きちんと戦争の記憶をとどめる最後のチャンスだと思います。一方、スキーのほうは17年ぶりでしたので、最初はどうなるかと思いましたが、意外と身体に記憶は残っているものですね。温泉効果か筋肉痛にならずでした。いい教養と運動で今年も元気にスタートです。

そんな休暇のなか、「予測」という言葉がふと思い浮かびました。「永遠の零」では零戦の空中戦がでてきますが、常に敵機の動きを予測しながら自分の戦闘機を操縦します。スキーでも次にくるコブや周りのひとの動きを予測しながら曲がるタイミングをとります。仕事でも同じです。的確な予測が大きなチャンスをよびこみます。「予測」とは、いろいろなデータをもとに客観的に計るものであり、どちらかというと主観的に想う「予想」とは違います。できるひとは、単なる予想では動かず、予測して物事の判断を下します。

サイエンスではどうでしょう。私はいつも学生に、実験をやるときは、その実験のあとのことを予測しながら実験計画をたてなさいと言います。実験がうまくいった、うまくいかない、とよく言いますが、少なくとも技術的な問題がない限り、一見ポジティブでもネガティブでもどんな実験もうまくいった結果です。大事なことは、どんな結果がでようとも、その結果次第で次の仮説がたてられる、次の実験に進める、そんな実験をやるべきです。これからやる実験はなぜやるのか?その結果がでたときに何がいいのか?と自問自答してからはじめることです。ここでも、単なる予想ではだめで、予測なのです。

東京大学の濱田総長は、大学の目標のひとつに、タフな東大生の育成、と言っています。どんな局面にも対応できる強い芯のある人間を育てるという意味を含みます。確かに、時代の流れに適応してその潮流に乗っていくためには必要な能力かと思います。しかし、すさまじい勢いで情報が錯綜するネット社会では、それに対応してなんとか生きていくという受け身な姿勢になりがちです。ただ、それで満足してはなにも残りません。何かを見て、聞いて、感じたら、その次を予測して行動を決める力、すなわち「予測力」も私は大切だと思います。サイエンスの世界でも、今の流行りの領域だけでなく、次世代のサイエンスを常に考えながらやるのと似ています。私の講義の板書や学位論文などの添削の字は汚いですが、何が書いてあるのか予測できる力をつけてほしいからわざと汚く書いているのです(笑)

年末にスキーで事故をおこしたシューマッハは、稀代の予測力をもっていると思います。それなのに、ふと油断をしたのか、それとも攻めの気持ちが勝ってしまったのか、誰にもわかりません。もしかしたら、「予測」ではなくて、遊び心の「予想」をしてしまった結果なのかもしれません。それが人間らしさというものかもしれません。サイエンスでも、過去のデータをもとに「予測」をするとき、ふと、遊び心の「予想」をして動きたくなるときがあります。綿密な調査と客観的な論理の「予測」ができるようになったら、ちょっとした遊び心をまぜるとサイエンスの可能性が広がります。先を読む必要はないと思いますが、一歩先を見ながら、こうなったらいいなと常に予測しながら、そしてたまには遊び心的な予想をしながら、午年を走っていきたいと思います。もっとも予測ばかりして足元が見えなくなってはいけませんが。

研究室ともども今年もよろしくお願いします。

平成26年元旦

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