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以下は、「日本味と匂学会誌 巻頭言」として掲載されたものです

日本味と匂学会誌 巻頭言 2024年4月



本年4月に、吉原先生から学会長職を引き継ぎ、日本味と匂学会第11代会長を拝命しました。すでに、学会HPと会員メールでご挨拶をさせていただいていますので、本巻頭言では、最近思っていることを書きたいと思います。 昨年から生物科学学会連合という34学協会、総計9万人が所属する学会連合の代表を務めております。日本味と匂学会も加盟しておりますが、研究環境を取り巻く諸問題を、学会連合というまとまった力を利用して、政府や社会に発信・提言して、解決・改善することを目指しております。その活動の一つとして、現在、大学の研究教育環境の改善のために、科研費や運営交付金の増額を政府に要望する方向で動いており、先日、日本味と匂学会でも運営委員会で議論されて賛同したところです。

学術研究教育の基本的な基盤となる運営費と科研費のデュアルサポートシステムが崩壊し始めたのは、国立大学が法人化した以降かと思います。藝大のピアノ売却や建物老朽化による事故、科博のクラウドファンディングで明らかなように、近年日本の教育に対するサポートが激減しています。国立大学法人に限ると、法人化以降、大方は国の予算に依存しつつ、大学は経営体として一企業のように稼いで独立するべきという価値観を国から押し付けられてますが、そもそも教育機関が稼ぐのは本末転倒です。一方で、欧米諸国は、教育職についている人の評価は高く、学生は美術館無料など、人を育てる現場と学問を大切にしています。

教育の視点だけでなく、研究現場を取り巻く環境も厳しいものがあります。国からの大学運営費(旧校費)がどんどん少なくなり、外部資金をとってこないと研究ができない状況になってきています。ボトムアップの外部資金は科研費のみですが、物価高の中、科研費の額は増えていないので何割か減っているのと同じです。万博開催で数千億が補填されましたが、日本の科研費全体の予算はほぼ同じ額です(総務省の言う「科学技術研究費」とは違う)。それで100万人の研究者が研究をしていますので、単純計算すると一人たった数十万円です。一方で、国はトップダウン型の研究費を多く投入しています。これは重点課題を設定して戦略的に遂行する研究費です。しかし、問題は、日本では課題設定に時間がかかることです。有識者から今やるべき研究課題を調査し、その議論を進めてから慎重に決定する、そして実際に財務省からお金をついてスタートするのに、数年間かかっています。その間に旬な研究はそのタイミングを逃し、欧米諸国に遅れをとってしまっています。さらに、ある特定の声の大きい人の意見が取り上げられがちで、適切な選択と集中がおこなわれていないと感じます。

不平ばかりを並べましたが、では、国はどうあるべきでしょうか。運営費や科研費や大学院生サポートなど教育現場にもっとお金をかけるとともに、保育士から大学教員まで教育に関わる人たちにstatusを与えるべきだと思います。そして、教員も事務員も時間と余裕ができるように、DX化を迅速に進めて、誰も見ない報告書や、あとに続かない意味のない評価など無駄な雑用を減らす。そして、学問はトップダウンであるべきではないと思います。日本学術会議は政府に毅然と立ち向かい、学問の自由を死守しようとしています。幸いなことに、コロナ禍は去りましたが、初等教育から高等教育まで全ての教育と学問の現場の緊急事態宣言を発すべき時にきていると思います。

では、逆に教育者は何をすべきでしょうか。世の中、Society 5.0に向けて効率化を目指して、AIを駆使したアプローチが台頭してきていますが、私はそれは教育の対象ではなくてあくまでもツールで、今後の大学では、ポストAI・ポストDXを見据えた教育を推進するべきだと思います。それは、プロセスをデザインして遂行できる力を育むこと。一昔前までは当たり前であったことですが、これができないと、仕事ができない。仕事ができない人が増えると、国力も衰退する、そして安全・安心な社会ではなくなっていく。情報社会、DX化に伴い、AIが動かすシステムに頼りっきりで、プロセスをおろそかにして、人間の感覚が鈍っていくのではと危惧します。

人間らしい直感力を退化させない教育をすべきだと思います。それは動物としての直感に加えて、高度に進化した人間としての「ロジックのある直感」です。その直感力を身につけるために必要なことは、外界情報を捉える「感覚」を鍛えることだと思います。AIやロボットが色々なことを代替する時代に、生身の人間としての力が、再認識されて重要になると思います。そのベースとなるものが、私たちの生活のQOL, well-beingに密接に関わっている「化学感覚研究」かと思います。学会HPの挨拶や会員メールにも書きましたが、私たちの学会の対象する研究分野を広げ、社会との関わりを議論することによって、新しい時代に対応できる人間力基盤を作る方向性に本学会はより貢献できるようになるだろうと信じています。

令和6年3月 東原和成(注:内容は2024.4時点での意見になっています)  

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