細胞内コレステロール量は非常に厳密に制御されており、不足した際には、コレステロール合成経路の諸酵素の活性を上昇させ、また細胞表面のLDL受容体の数を増やし、細胞外からの取り込みを増加させます。この精緻な制御機構は転写レベルで行われており、これを支配するのがSREBP2です。もう一つのSREBPのサブタイプであるSREBP-1は脂肪酸・トリグリセリド合成を調節し、エネルギー代謝制御に深く関与します。我々はSREBPの発見から、その機能の解析まで幅広い研究を展開してきました。さらに、糖代謝と脂質代謝を結びつける転写因子ChREBP、核内受容体PPAR、HNF-4、LXRなどとの機能相関の研究を発展させています。このような基礎研究知見から食品成分の中から脂質代謝改善に寄与する成分を見出す応用研究も展開しています。
骨格筋は代謝調節にとり大切な臓器の一つです。血糖値が高い時に、血中のグルコースの70%近くは骨格筋に取り込まれ、血糖値が低下すると言われます。運動の健康維持機能も骨格筋での種々の因子が変動することにより達成されます。健康を維持する際に、健全な食生活と適切な運動習慣が必要とされます。しかし高齢社会を考えると、十分に運動習慣を達成できない高齢者が今後益々増えていくことが想定されます。骨格筋における代謝制御機構を分子レベルで明らかにする基礎研究を進めると同時に、運動による代謝改善効果を模倣する機能を食品成分に見出す応用研究を展開しています。その様な運動機能を模倣する可能性のある食品成分を「運動機能性食品成分」と命名し、このような成分を来るべき超高齢社会で積極的に活用することを目指した研究を進めています。
脂肪組織はエネルギー貯蔵器官として機能しています。近年の研究成果により、種々の生理活性分子を分泌する内分泌組織であると認識されるに至っています。肥満は脂肪組織へ過剰の脂肪を蓄積し、脂肪細胞の性状を変化させ、インスリン抵抗性を惹起する分子の分泌を促すことにより糖尿病発症を導くと考えられています。脂肪細胞内において脂肪は細胞質に脂肪滴という形で蓄積されます。この脂肪滴の表面にはペリリピンという特異的なタンパク質が付着して、脂肪滴の形成、機能維持に関与しています。 我々は、脂肪滴の形成機構を解析し、肥満を抑制する分子基盤を明らかにすることを目指しています。さらに脂肪細胞分化に関与する新たな因子Bcl11bの機能解析、脂肪滴分解を促す血中成分FGF21等の機能解析を行う基礎研究を介して、抗肥満につながる食品成分を見出す応用研究を展開しています。