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物性セミナー/2016-12-16

2016年 冬学期 第3回 物性セミナー

 講師 畠山哲央氏(東大総合文化)

 題目 生命システムにおける頑健性と可塑性の互恵的関係

 日時 2016年 12月 16日(金) 午後4時50分

 場所 16号館 827

アブストラクト

近年、生命現象の頑健性が、システム生物学の分野を中心として大きな注目を浴びている。頑健性とは、生命現象のある性質を外部環境の変化に対して一定に保とうとする性質であり、環境適応に重要である。しかし、頑健性だけでは十分ではない。環境変化に対して生物は頑健であると同時に、可塑性(変わりやすさ)を持たなければ、環境変化についていけず、やはり適応できないだろう。この頑健性と可塑性という一見相反する性質を、生物が一つのシステムの中でどのように両立しているかという問題は、環境適応を議論する上で真に重要であるが、未だに明確な答えが得られていない。そこで本研究では概日時計システムに着目し、頑健性と可塑性が両立するためのメカニズムを明らかにすることを試みた。概日時計とは約24時間周期の内因性の振動子であり、周期の温度補償性を示すことが知られている。一般に生化学反応は外部の温度によってその速度が変化するが、外部の温度のある範囲内での変化に対して、概日時計は約24時間の周期を頑健に保ち続ける。この周期の頑健性が温度補償性と呼ばれる性質である。一方で、温度変化に対して、概日時計はその位相を鋭敏に変化させることができる、つまり位相の可塑性を示す。周期の頑健性と位相の可塑性がなぜ両立するのかは1960年代から議論されてきたが、明確な答えは未だに得られていない。この理由の一つは、そもそも温度補償性のメカニズムが50年以上もの間、明らかになっていなかったためである。そこで、まずシアノバクテリアの概日時計のモデルを作成し、温度補償性の新規メカニズムを理論的に明らかにした[1]。同時に、温度変化に対してより周期が頑健であれば、同じ刺激に対してより位相は変化しやすいという、周期の頑健性と位相の可塑性の互恵的関係を発見した。驚くべき事に、同様の互恵的関係が、振動のメカニズムの全く異なる概日振動子のモデルでも見出された。そこで互恵的関係のルーツを探ったところ、システム生物学で良く知られている適応モチーフとの共通点を見出すことができた[2]。本研究は、概日時計において頑健性と可塑性の関係を理論的に明らかにした初めての研究であり、今後、生命システムにおける頑健性と可塑性の関係を議論する上で重要な一歩となるだろう。また、最近の研究で、反応拡散系による空間パターン形成においても頑健性と可塑性の互恵的関係が存在し、それがシステムのスケーリングによって説明できることを明らかにした。この新たに発見された互恵的関係に関して、以前の研究との関係や、生物学的な意義についても議論したい。

[1] Hatakeyama TS and Kaneko K, PNAS (2012)

[2] Hatakeyama TS and Kaneko K, PRL (2015)

宣伝用ビラ

KMB20161216.pdf(208)

物性セミナーのページ

http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/KMBseminar/wiki.cgi/BusseiSeminar

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最終更新時間:2016年12月07日 17時25分33秒