赤外域の表面プラズモン波の共鳴制御:Insitu label-free/ real-time計測
【分子認識可能な生体分子反応のダイナミクス(SEIRA応用へ)】
酸化物半導体を用いた従来のバイオセンシングは、電気的手法(インピーダンス、トランジスタ及び表面弾性波など)に頼っていた。本研究は、生体親和性の高い酸化物半導体である酸化亜鉛(ZnO)の近赤外表面プラズモン共鳴(ZnO-SPR)を用いたバイオセンシングへの応用を初めて実証した。金属伝導性を持つGa添加ZnO(ZnO: Ga)薄膜を光導波構造(誘電体-金属-誘電体構造)に適用させて、ZnO薄膜表面から高効率な表面プラズモン励起(Q-factor ~ 50)を実現させた。更に、生体分子間相互作用の分光計測に向けて、酸化物表面上への単分子膜(SAM)の自己形成を行った。その際、ホスホン酸(PO4-骨格)系の単分子を採用した。生体分子反応のリアルタイム計測は、特異結合性の高いビオチン・ストレプトアビジンの抗原抗体反応を用いた。生体分子反応は、表面プラズモンの共鳴ピークシフトから評価した。ZnO-SPRの検出限界濃度は100ng/ml相当である(図)。現在、単分子レベルで分子認識が可能なバイオセンシング(SEIRA)技術を進めている。
無機バイオセラミックスの光機能化と応力光技術の開拓と実証
【応力発光への展開とその応用】
生体力学の実験検出は、ヒューマニクスやロボティクス分野において必要とされる計測技術である。従来は、材料表面の歪み量検出が主に注視されていた。しかし、応力集中部の実験的観察は、従来の電気的検出手法では限界であった。本研究では、無機バイオセラミックスに機能性を付与し、応力光イメージングが可能な新しい光技術を開拓する。特に、応力・摩擦・摩耗の直接的な可視化を目指す生体内で発現する機械的物性をコンピュータ支援に頼らず、実観測を目指す。研究方針として、応力発光材料や応力誘起相転移材料に着目した研究を展開する。
生体防御に向けた透明反射遮熱フィルムの高機能化
【調光ガラス窓に向けた新技術の開発】
近赤外光(日射熱)の遮熱制御に関する光熱デバイスにおいて、外気温に応じて遮熱性能を電気的に制御可能なエレクトロクロミック機能が要求される。それは室内環境の熱に対して重要な役割を果たし、ウインドウ窓の熱マネージメントに寄与する。従来の日射熱の機能制御は、遷移金属酸化物(WO3,
MoO3)による可視光制御(着消色反応)が知られ、それは可視透明性が悪く、光熱変換も高く、薄膜試料表面の温度上昇(熱放射)も懸念される。故に、研究では、酸化物半導体ナノ粒子を基盤とした表面プラズモンの電気的制御に基づいてた調光可能なガラス窓の創製を目指す。特に、固液界面下での電子ドーピングをナノ粒子界面に適用させ、日射熱(近赤外光)及び輻射熱(中赤外)制御を実現させる点が本研究の重要な視点となる。本課題では、①酸化物半導体ナノ粒子の結晶・化学制御、②表面プラズモンの電気的制御、及び③固液界面技術による電子状態変化と熱制御を実施し、省エネ社会の実現に向けた新しい熱制御基盤技術材料を創出する。
赤外域の表面フォノン波の共鳴制御
【生体親和性・無機バイオマテリアルを用いた新しいSEIRA技術への応用】
赤外域は、バイオセンシングや熱放射制御に向けた重要な波長帯域である。本研究では、酸化物ナノ構造表面で生成する表面フォノン(格子振動の量子化)に着目する。表面フォノンは、金属材料の表面プラズモンと相違し、光学損失が小さいため尖鋭な共鳴効果を示す。それは、バイオセンシング等に要求される高い表面検出技術への応用に期待される。本課題では、本応募者は、バイオマテリアル(例えば、水酸化アパタイト)からの表面フォノン波の生成に初めて成功し、高い光学的性能(Q-factor)を持つことを示した。今後、赤外域で特徴的な表面フォノンを用いた新しい表面増強赤外分光(SEIRA)への応用を目指す。本課題の遂行には、中赤外から遠赤外域での分光計測が必要である。現有装置への遠赤外分光ユニットの増設を検討している。大学共通設備を用いたリソグラフィーを活用して、マイクロサイズでの構造制御(ドット、ホール形状)を行う。実施計画として、顕微赤外分光を用いて、表面フォノン共鳴と構造サイズとの相関や、3次電磁界解析を用いた理論的考察を遂行する。そして、表面フォノン波を用いた新しいSEIRA技術を開拓する。バイオマテリアルの新しい物理的側面を明らかにする点において高い新規性を持った課題である。
生体運動計測に向けたフレキシブルな光歪みセンシング
【生体模倣のバイオミメティクスへ】
フレキシビルな応力光センシング技術 【ソフトマテリアルや生体運動計測への応用】
近年、生体運動機能の検出に向けたヒューマニクス分野や生体情報検出の重要性から、高い歪み領域(50%以上)での応力計測や、可視化技術が社会的に要求されている。試料に発生する力学的特性を、高い空間分解能を持ってリアルタイムに計測可能な応力センシングが必要とされている。試料に発生する応力・歪みの高感度検出に向けて、従来は電気的な計測手法が利用され、歪み量に応じて異なる原理で動作するセンサー(金属・圧電体・ナノコンポジット)が存在する。しかし、電気的計測は、応力を直接的に計測することが困難である。一方、光学的手法は応力集中を直接的に観測するこが可能であり、光弾性法やモアレ法などが報告されている。これ等の手法は、弾性変形領域で用いられ、塑性変形領域や複雑な構造体への適用に課題がある。本研究は、ナノ粒子薄膜をメタマテリアルとして光機能化させ、既存の分光計測手法では困難であったマクロな力学的情報(応力・歪み)のリアルタイム計測とその可視化を目指す。特に、ナノ粒子界面の構造学(分離・結合・接着)な力学的性質の理解、及びサブミクロンのドメイン構造の動的制御、及び機械的印加に伴って発生する機械的特性を光学的特性から観測する。そして、柔らかい材料や生体運動計測に適用可能なフレキシブル応力光センシングを実現する。
生体分子・ガス認識可能な酸化物ナノワイヤ構造制御
【非金属・金属SERSに向けた1次元メタ構造の応用】
表面増強ラマン散乱(SERS)分光は、微量な試料の分子振動分光の高感度な計測が可能とする。特に、ナノ構造体表面に局在する強い光電場増強は、微量な試料からのラマン信号を増大させる。従来のSERS計測は、金属ナノ材料の表面プラズモンや光吸収に伴う電荷移動(CT)が利用されていた。金属ナノ材料を利用したプラズモン型SERSは、局所的な熱生成に伴う生体分子の分解や変質が生じる。また、電荷移動型SERSは、分子振動の増強効率が著しく低い。故に、従来のSERS課題の解決に向けて、本研究では、非金属の酸化物ナノ構造(誘電体メタ構造)に着目して、強い光散乱が支配的なRayleighやMie効果を応用した非金属SERS (Metal-free SERS)を提案する。光散乱とナノ構造体を融合させることで、局所的な光電場増強が形成され、強いSERS応答が期待される(右図)。本課題では、微量な生体分子や生体関連ガスを対象としたセンシング応用に向けて、分子認識が可能なSERSデバイスを構築する。更に、フレキシブルなSERSフィルム(例えば、人の皮膚表面に張り付け可能なフィルム)を開発し、皮膚ガスの計測に発展させる。本研究は、①酸化物材料のナノ構造制御と②光電場増強と高感度なSERS分光の実証を目指す。