東京大学では、設立以来、教養教育(リベラルアーツ教育)を学部教育の基礎として重視してきました。流動化する社会において、知的基盤としての教養教育に対する社会的要請は強まっており、大学院総合文化研究科・教養学部を有する駒場Ⅰキャンパスにおける教養教育の実践は、その重要性を高めています。
東京大学が目指すリベラルアーツとは、専門教育が始まる前の単なる予備段階としての教養教育ではなく、様々な境界を横断して複数の領域や文化を往き来する思考や感性の運動そのものを指します。かつて言われてきた単に部分的専門的な知識の基礎である一般教養を身につけ、人間として偏らない知識をもち、どこまでも伸びていく真理探求の精神を植え付けることという定義とは一線を画すものです。こうしたリベラルアーツを「学士前期課程ー学士後期課程ー大学院」という一貫した教育研究組織で培うのが、駒場Ⅰキャンパスです。学部から東京大学で学ぶ学生は、駒場Ⅰキャンパスでリベラルアーツに存分に触れ、無限にある可能性を認識し、入学当時の関心に縛られることなく専門性を模索することが可能なのです。
教養学部は、1949年5月31日、新制東京大学の発足と同時に設立されました。全国の大学がいわゆる「教養部」を置いたのに対して、その名が示すように独立の学部でした。1990年代、全国の大学が教養部を廃止するなか、教養学部ではカリキュラムの抜本的改革を行い、学部として教養教育を実践していく伝統を堅持し、東京大学に入学した学生全員に対する前期課程教育を担っています。2012年には、英語による学位取得コースPEAK(Programs in English at Komaba)が開始され、国際色豊かなキャンパスへと変貌を遂げました。
前期課程における教育の核となるのが、リベラルアーツ(Liberal Arts)教育です。リベラルアーツ教育は、大学入学時点の限られた知識・経験・思考の限界から、学生を文字通り解放(liberate)して、ありきたりの固定観念や先入観から自由で、他者の説を無自覚に受け売りしない、本当の意味で独立した思考の持ち主とするために行われます。そこで前期課程では、学生が特定の学問領域に偏ることなく社会・人文・自然を幅広く学び、自らの思考を理路整然と自在に展開できる能力を培うことに、その教育の重点を置いています。
教養学部後期課程は、「教養学科」「学際科学科」「統合自然科学科」の3つの学科で文系と理系、更に文理融合分野をカバーしています。前期課程の精神を更に発展させ、「学際性」「国際性」「先進性」をキーワードとして、深い教養をベースに従来の枠組みや領域を超えて、新しい分野を開拓する気概を持つ人材、「越境する知性」を育成しています。大学院総合文化研究科は、教養学部後期課程における専門教育の深化・展開を目的とし、その教育・研究理念として学際性と国際性を掲げ、専門領域における研究者だけでなく、社会の実践的分野においても国際的に指導的役割を果たすことのできる人材を養成しています。
大学院総合文化研究科・教養学部は、このような「前期課程─後期課程─大学院」という一貫した教育研究組織として学際性と国際性を兼ね備えた知の発信地となることを追求しています。