研究内容

1. 剥離剪断流中で発達する乱流に関する研究

 層流境界層が剥離して形成される剥離剪断層は、乱流へ遷移し、その後壁面へ再び付着する場合があります。この流れは剥離渦と呼ばれています。翼の上に生じた剥離渦(層流剥離泡と呼ばれる)は、翼の失速特性に大きな影響を与えます。この問題は粘性流体力学的にも、翼型設計上でも重要な問題なので精力的に研究を続けています。最新の流体計測装置を駆使した風洞実験によって、翼型上にできる層流剥離泡の内部流れの解明と制御を目指しています。
 翼型失速が発生するのを出来るだけ遅らせることを目指した研究として、翼型上に生じる層流剥離泡内に設置された剥離泡崩壊制御板と自律型アクチュエーターを組み合わせた翼型失速抑制システムを開発しています。さらに関連して、翼上あるいは物体周りの剥離流れの流体力学的特性を調べることと剥離流れの制御を目指した実験研究も行っています。
 詳しくはこちらのPDFをご覧ください。

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翼型上の剥離流れの可視化の例
(気流は左側から)
動的な剥離法崩壊制御板と機械学習を用いた
翼型失速抑制システムの例


2. 航空機設計法に関する研究

 航空機の概念設計では、過去に作られた機体に関する統計データを多用するのが一般的です。これに対して、概念設計の段階から詳細な空力設計法と最適設計手法を活用することで、新しい概念を有した機体設計を行うことを目指しています。また、効率的に航空機設計を行うことのできる設計ツールの検討を行っています。現在は、概念設計に役立つ最適設計手法、概念設計の高度化および電動推進航空機の概念設計について検討しています。

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機体設計例
設計ツールの概念図の例


3. 超音速機の低速特性改良についての研究

 超音速旅客機(SST)には、飛行時間の短縮による利便性の向上といった利点がある一方、環境適合性と経済性には課題があります。そこで、低環境負荷なSSTの実現に向けた様々な研究が行われています。このうち、低速・大迎角飛行となる離着陸時の性能向上は、離陸距離や空港周辺での騒音の観点から重要な研究課題です。SSTに用いられるデルタ翼には、低速・大迎角飛行の際に翼上に生じる前縁剥離渦の影響のため、望ましい空力特性が得られないという課題があります。そこで本研究室では、SST主翼の形態変更による空力特性の改良を目指す研究や、設計に利用しやすい空力推算手法の研究を、理論解析・風洞試験・数値計算を併用しながら進めています。

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SST模型を用いた風洞試験
(JAXA共同研究)
SST主翼上に発生する前縁剥離渦の実験と
数値解析結果との比較


4. 航空機設計に適用可能な数値流体解析プログラムの研究

 革新的な航空機を設計するためには、様々なコンセプトの航空機に対する空力性能評価が必要です。そこで、航空機概念設計に適用可能なNavier-Stokes方程式に基づく物理的に正確な数値流体解析(CFD)プログラムの開発を進めています。また開発中のプログラムをベースとした応用研究にも取り組んでいます。最適化・流体構造連成・着氷解析・機械学習等との異分野統合解析がその一例です。他にも、比較的新しい流体解析手法として知られる格子ボルツマン法に関する研究にも着手しています。

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超音速機周り流れの解析例
遷音速旅客機周りの非定常空力解析例


5. 受動的モーフィング翼の研究

 航空輸送への需要の高まりから、より燃費性能の良い航空機を実現することが重要です。このため、飛行状態に応じてその形状を変化させるモーフィング翼が注目されています。これまで様々なモーフィング翼型の研究がなされてきていますが、それらは全てアクチュエーターを用いて能動的に変形を制御する機構を有するものです。これに対し本研究室では、翼型周りの圧力を受けて受動的に変形する、全く新しいコンセプトのモーフィング翼型を研究しています。受動的モーフィング翼型の空力特性を解明するとともに、より効率的に変形する新しい構造や、新しい空力デバイスの可能性を探索しています。更に、流体力に逆らって変形する機構を有する翼型(一般的に物体は流体力が働く方向に変形する)の空力及び構造特性解明に取り組みます。学術的にも空力・構造連成の新しい問題であり、理論解析・風洞試験技術・数値シミュレーション技術を併用しながら研究を進めています。

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押された方向に変形する受動的モーフィング翼
圧力係数分布


主な研究設備

 低速流れ(特に翼型、乱流)に関する実験のために、二次元煙風洞(10cm x 150cm)、吸込型風洞(20cm x 60cm)、フラッター風洞(30cm x 120cm or 60cm x 60cm)、二次元レーザードップラー流速計、熱線風速計、高速度ビデオカメラ、Particle Image Velocimetry等が整備されています。また実験用の模型を製作するための3Dプリンタもあります。
 数値解析に関する研究では、研究室の計算機や関連ソフトウエアを利用できます。大規模な計算では、東京大学情報基盤センターの大型計算機も利用します。さらに、機械学習などに関連する研究のための、GPUが搭載された計算機も整備されています。

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二次元吸い込み型低速風洞測定部
3Dプリンタ



論文・学会発表

以下は研究成果の一例です。

剥離剪断流中で発達する乱流に関する研究

  • 加藤 健人, 砂田 保人, 李家 賢一, “失速付近迎角において層流?離泡から準周期的に放出される渦の挙動に関する実験,” 日本航空宇宙学会論文集, Vol. 67, No. 4, 2019, pp. 111-118.
    https://doi.org/10.2322/jjsass.67.111
  • Rinoie, K. and Takemura, N., "Oscillating Behaviour of Laminar Separation Bubble Formed on an Aerofoil Near Stall," Aeronautical J., Vol.108, No.1081, 2004, pp. 153-163.
    https://doi.org/10.1017/S0001924000151607


    • 航空機設計法に関する研究

      • Tanimura, T., and Rinoie, K, “Consideration of Future Development of Hybrid Electric Aircraft using Epoch-Era Analysis,” AIAA Scitech 2021 Forum, AIAA Paper 2021-1639, 2021.
        https://doi.org/10.2514/6.2021-1639
      • 李家 賢一, 圓谷 悠, “学部教育用航空機概念設計サイジング法について,” 日本航空宇宙学会論文集, Vol.51, No.597, 2003, pp.585-588.
        https://doi.org/10.2322/jjsass.51.585


        • 超音速機の低速特性改良についての研究

          • Ishibashi, H. and Rinoie, H., “Studies on a New Estimation Method for Pitching Moment Nonlinearities of Cranked Arrow Wing at Low Speed,” 2021 Asia-Pacific International Symposium on Aerospace Technology, 2021.
          • Rinoie, K., Miyata, K., Kwak, D.Y. and Noguchi, M., “Studies on Vortex Flaps with Rounded Leading-Edges for Supersonic Transport Configuration,” J. Aircraft, Vol.41, No.4, pp.829-838, 2004.
            https://doi.org/10.2514/1.264


            • 航空機設計に適用可能な数値流体解析ソルバーの研究

              • Sugaya, K., and Imamura, T., “Unsteady turbulent flow simulations on moving Cartesian grids using immersed boundary method and high-order scheme,” Computers & Fluids, Vol. 231, 2021, Article No. 105173.
                https://doi.org/10.1016/j.compfluid.2021.105173
              • Maeyama, H., Imamura, T., Osaka, J., and Kurimoto, N., “Turbulent channel flow simulations using the lattice Boltzmann method with near-wall modeling on a non-body-fitted Cartesian grid,” Computers & Mathematics with Applications, Vol. 93, 2021, pp. 20-31.
                https://doi.org/10.1016/j.camwa.2021.04.003
              • Tamaki, Y., and Imamura, T., “Turbulent Flow Simulations of the Common Research Model Using Immersed Boundary Method,” AIAA Journal, Vol. 56, No. 6, 2018, pp. 2271-2282.
                https://doi.org/10.2514/1.J056654


                • 受動的モーフィング翼の研究

                  • Kai, S., Takazawa, S., Ochi, S., Imamura, T., Yokozeki, T., and Rinoie, K., “Low Speed Wind Tunnel Testing of a Passive Camber Morphing Airfoil Using a 3D-Printed Compliant Mechanism”, 2021 Asia-Pacific International Symposium on Aerospace Technology, 2021.
                  • Taguchi, K., Fukunishi, K., Takazawa, Y., Sunada, Y., Imamura, T., Rinoie, K., and Yokozeki, T., “Experimental Study about the Deformation and Aerodynamic Characteristics of the Passive Morphing Airfoil,” Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Vol. 63, Issue 1, pp. 18-23, 2020.
                    https://doi.org/10.2322/tjsass.63.18


                    • (最終更新日: 2022年2月9日)
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