植物根端の回旋運動に与えるアルミニウムの影響植物の根が土壌中のアルミニウムイオンによってダメージを受けることはよく知られています。その影響としては、根端の肥大化や根伸長の低下などがよく知られていますが、そのAl障害が表れる様子をリアルタイムで観察したところ、イネ根端の回旋運動もまたAlの影響を受けていることが明らかになりました(回旋運動とは、根が伸長する際に根端がらせん状の軌跡を描くことです)。この実験にはNHK技研よりお借りしたSuper-HARPcamera(暗所でも明瞭な映像を得られる超高感度カメラ)を使用し、イネ根端の撮影・解析を行いました。
現在、酸性土壌は世界の農耕地可能面積の約40%を占めており、将来の食糧増産を図る上での大きな問題となっています。酸性土壌が作物の生育障害を引き起こす最大の要因は、土壌中より可溶化したアルミニウム(Al)による根の生育阻害であることが知られています。そこで、本研究室では、Alに対して高い特異性・検出感度を有する蛍光色素(ルモガリオン)を用いた組織染色法の開発を行い、組織細部のAl動態の解析法を初めて確立することができました。さらに、植物体のみならず植物培養細胞におけるAl過剰害の比較検討も含め、Al過剰障害のメカニズム解明に関する基礎的研究を行いました。
ダイズ根端のルモガリオン染色の様子です。輪切りにしてあります。Al処理後15分という短時間でも、Alが核まで到達していることがわかります。
タバコ培養細胞のルモガリオン染色の様子です。共焦点レーザー顕微鏡を用いることで、立体的な細胞の特定断面を選択的に観察できます。これにより、通常の蛍光顕微鏡よりも詳細な観察が可能となりました。細胞膜上に粒子が見えますが、Alと吸着しやすい部位がある可能性が示唆されます。また、核にAlが集積している様子もわかります。
共焦点レーザー顕微鏡で得た細胞の断面像を、重ね合わせて立体化した画像です。15分という短期間でのAl集積が見えると同時に、その分布が一様でないことがわかります。
植物体は無機元素を水分と共に吸収しています。また、植物体内や根圏の水分分布を知ることは、植物体が乾燥に耐えるためにどのような戦略をもっているか知る手助けになるかもしれません。そこで、本研究室では、中性子を利用し非破壊で水を可視化する方法を行ってきました。中性子線は透過性の高い放射線ですが、水素によって止められやすい性質があります(水素は中性子線に対し、金属元素などと比べて約1000倍の吸収・散乱能があります)。よって、中性子が透過しなかった部位には水素があることになります。植物の場合では、植物組織中の約8割は水で構成されているため、中性子線により水素の像を得ればそれは植物中の水の像を示すこととなります。
当研究室では、中性子線による可視化手法を植物体について適用してきました。可視化にはX線フィルムやCCDカメラを用いますが、中性子線はX線フィルムやCCDを透過してしまうため、コンバーターを用いてX線や可視光に変換して撮影します。
一度の撮影では平面の像しか得られませんが、試料を回転させながら多回数の撮影を行い、それを画像処理することで3D像・CT像(断面像)を得ることができます。