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InterviewCOG審査委員リレーインタビュー企画:
第9回 渡辺美智子 審査委員

――多様な視点の融合で生まれるソリューションが醍醐味

 これまで参加されたチームの皆さんの発表に毎年とても強い熱を感じますし、その熱気に、COGの理念の重要性や潜在的なニーズの大きさを感じています。その中でも特に印象に残っているのは、市民側の構成の多様性ですね。いろんな職業の大人がいて、大学生や高校生、中には中学生もいた。それに加えて女性の視点に男性の視点、そのほか多様な背景を持った人たちそれぞれの視点とスキルが共通の問題意識の中で融合してソリューションを生み出し、さらに成長させている……。「ハードなものづくり」とは一味もふた味も違う「ソフトなことづくり」のプロセスが感じられて、とても勉強になっています。

――Data・Digital・Designの思考を磨いてチャレンジを実現して

 私が専門としている統計学は「データサイエンス」という言葉とともに、問題解決としてのデータ活用を考えたり、手法を提案したりするという面が注目されています。そもそも統計データ自体が、歴史的に「弱者のための統計」と言われてきました。通常は慣習や権力、そのほか声の大きな人の意見で動かされがちな政策に対して、行政データは一般市民のありのままの意見や状態を拾う役割があります。これまではデータ保有や活用が自治体側に偏るという「情報の非対称性」が問題視されてきましたが、最近では行政データのオープン化が促進され、データを住民誰もが活用できるようになってきています。行政と住民の情報格差を埋めるためのビッグチャンスと言えるでしょう。

 ただし「どういうデータをどう分析すると、何を訴えることができるのか」を理解するのは、簡単にできることではありません。Data・Digital・Designという3つのDというCOGのメソッドは、それを手助けするものです。データの思考力、デジタルのいわゆるシステム思考、そして最近注目を集めているデザイン思考……。問題解決のためのチャレンジを具体化し、社会実装化するために3Dの思考を磨き、実践する場がCOGにはあります。その過程こそが大切ですし、COGで皆さんが磨かれた3Dを拝見できるのを楽しみにしています。

――データを介して住民との協同する足掛かりとして参加して

 個人的な印象ですが、市民に比べると、自治体サイドの熱がまだ低いように感じます。熱心に参加するのが、仕組み的に難しいところがあるのかもしれません。しかし、行政データのオープン化は国を挙げて進められていますし、オープンガバナンスという方向性、住民が主体的になってかかわっていく「住民中心主義」とそのための「住民と行政の情報の保有の非対称性の是正が求められている時代です。

 難しいことかもしれませんが、行政に「COG課」を置き、仕事として取り組んでもおかしくないほど、オープンガバナンスは重要な時代の潮流です。COGを熱意ある一職員に属人化したものにしてしまうのではなく、自治体として住民をサポートしていく姿勢を見せていくことで、自治体と住民の協同が実現されていきます。データをオープン化することだけが目的ではありません。データを通して住民と行政側の情報を平滑、対称にしていくことが重要ですし、その足がかりがCOGにあります。「ぜひ自治体を挙げて、積極的に参加していただきたい」と声を大きくして訴えたいですね。

――「自分たちで成し遂げる」というメッセージのバトンつないで

 「自分たちの生活を自分たちで作り上げる」という貴重なメッセージはこれまでの参加者がすでに発信されてきました。審査委員として敬服の至りです。市民・学生のみなさんには引き続き、「自分たちでやるんだ」というメッセージと熱を発信していただきたいと思っています。誰もが熱を発信し、先導する集団になり得ます。その自信をもって発信されるパッションに、今後も刺激を受け続けたいと願っています。

 すでにCOGは開始から数年が経過し、大きな実績が上がっていると自負しています。全国的にCOGという種がまかれ、数多くの課題解決型の集団・チームが全国に存在しています。そしてCOGがその集団に日を当てていくというファーストステップの仕組みは形作られたと思います。ネクストステップとして、上記のような集団同士のネットワーキングの仕組みづくりが必要な段階になってきていると感じています。「志を同じくする集団がつながることで何を作り出し、何ができるのか」という未知の領域の道筋を見ていきたいですね。その中で、目に見えない、人間の思考が寄せ集まって進む「ソフトなことづくり」の標準化や、それを育成していく日本型のCOGメソッドが形成されていくといいのではないかと期待しています。