センター長ご挨拶
少子高齢化が進行する社会において、先端医療機器や高機能福祉機器の市場は世界的に拡大しており、知識集約型・高付加価値型産業として重要な成長分野として位置づけられています。その中で大学における基礎研究成果を効率よく社会に送り出すシステム整備の重要性が指摘されています。
東京大学大学院工学系研究科には医療機器・福祉機器開発の確固たる伝統があり、バイオマテリアル、マイクロナノデバイス、医療用ロボット等の高度かつ豊富な医療福祉機器技術研究シーズを有しています。このような強みをさらに強化して実用化展開へと結びつけ、当該分野における日本の国際競争力向上と医療機器産業の持続的成長に貢献することが求められています。このような観点から2012年4月に工学系研究科医療福祉工学開発評価研究センターは、ライフイノベーションを誘発するための隘路となっている医療福祉機器レギュラトリーサイエンスの研究を推進することを目的に開設されました。
医療福祉機器の研究開発は、臨床上のニーズを的確にとらえて研究開発を進め、臨床研究を通じてその機能向上を進めていかなければなりません。医療福祉機器には、人体に介入を行う医療福祉に応用される技術であることから、原理的には残留リスクをゼロにすることが非常に困難となっています。医療福祉機器のリスクとその医療福祉機器の導入により得られる医療福祉上の効果(ベネフィット)のバランスを科学的に分析し、工学技術を活用してリスクを適切に低減しつつ効果の最大化を図るという姿勢での研究開発が求められます。しかし、革新性・新規性の高い医療福祉機器であればあるほど、その客観的科学的評価方法は確立されておらず、その適切な評価方法やリスク低減手法そのものを研究開発しなければならない状況となります。基礎研究を通じてその原理的な機能が検証された医療福祉機器であっても、臨床応用に際して想定される様々なリスクマネジメントを通じた改良・信頼性向上がなされたのちに、初めて臨床研究に適用できるようになり、非臨床・臨床評価により総合的に医療上の効果・安全性・品質が確認された機器・システムが実用化されることになります。医療機器の効率的な研究開発の実施には、基礎研究段階からこれらの特殊性を考慮した研究の実施が不可欠となります。
当センターではこのような問題意識より、医療福祉工学開発評価研究のための以下の分野の研究を中心に実施します。
(1)医療機器・福祉機器について、具体的シーズ開発に基づき、臨床試験を見据えた開発手法を体系化するための研究。
(2)具体的シーズ開発に基づき医薬品の薬効とは大きく異なる医療福祉機器性能の科学的・技術的評価方法を確立するための研究。
(3)先端医療福祉機器において診断治療に関わるリスクを予測し最小限の被害に留める手法の研究。
(4)物理化学に基づく医薬品開発および評価に関する研究。
これらの研究を、工学系研究科が有する具体的なシーズ研究を、東京大学医学部附属病院トランスレーショナルリサーチセンター等における実際の医学分野での臨床研究に展開する活動を通じて実施していく予定です。
また、医療機器審査機関である国内外有力機関とのネットワークを構築して開発評価研究活動を活性化し、医療福祉工学開発評価研究の国際中核研究拠点を形成し、さらに産学連携の場として産学協働を加速したいと考えています。
また、このような研究活動と共に、工学系研究科バイオエンジニアリング専攻を中心とした医工学分野の教育活動に協力し、実社会に展開するための課題を理解しつつ、新たな医療福祉機器開発を実施することができる人材の育成にも貢献します。
医療福祉工学開発評価研究センター長
津本 浩平