東京大学大学院 農学生命科学研究科 農業・資源経済学専攻 農業史研究室 Laboratory of Agricultural History

研究室案内

農業史研究室にようこそ

 農業史研究室は教員2人を中心としたアットホームな研究室です。広い視野や長期的スパンで農業や農村の歴史を研究することを大切にしています。農業経済学の一分野としては、過去の農業・農村を知ることはもちろん、現状分析の手法では分からないことの解明や、現状を対象とした研究の頑健性を高めることで、分野全体に貢献しています。
 他大学に農業の歴史を研究するところは多くありますが、本研究室は古島敏雄先生の志を受け継ぎ、学術的な信念を貫き、真に農業史の名に値する研究をすることを大事にしています。

農業史研究の対象領域

農民家族の生業史

 農民が生業を営む際の基本的な単位は農民家族です。上で述べたように農業史研究は、農民家族の形成と変化および農民の生業の歴史的変化を追求することを課題としています。農業技術と農業生産過程の変化や市場への対応、副業・兼業の再編あるいは離農(都市への移住)などが重要な研究対象です。

農村社会史

 他方で、農民は、家族の範囲を超えて労働力を交換し合ったり、また、農業用水や牧野・林野などの地域資源を共同で維持管理しつつ資源を分配しあったりするための共同組織を発達させてきました。支配権力の側は、徴税や労働力動員を目的に、農民の共同組織を行政の末端機構として把握しました。農業史研究においては、こうした特徴をもつ農村社会も重要な研究対象としています。農民を構成員とする農業団体・農民団体に関しても、農村社会の特徴と関連付けながら研究を行います。

農村環境史

 例えば、地域資源の過剰利用が進めば自然環境破壊をもたらすなど、農民による地域資源管理はその地域における自然環境の状態と密接にかかわります。地域資源の適切な維持管理が、自然環境の豊富化をもたらすこともあります。農業史研究と環境史研究とは、問題意識や研究領域において共有する部分が多くあります。

食生活史

 ところで、消費者の視点に立てば、農業の最大の役割は食料供給となります。食生活は、農業と同様に、資本主義経済の下で大きく変容しつつも「伝統」が根強く残る領域です。食生活は、自然環境や農業技術あるいは文化などの要素と関わりながら地域ごとに形成され、変化してきました。こうした食生活史の研究もまた、農業史研究が取り組む大切な課題となっています。

農業史研究のすすめ

はじめに

「学習権はたんなる経済発展の手段ではない。それは基本的権利の一つとしてとらえられなければならない。学習活動はあらゆる教育活動の中心に位置づけられ、人々を、なりゆきまかせの客体から、自らの歴史をつくる主体にかえていくものである。」
 この文章は、ユネスコ「学習権宣言」(1985年)の一節です。人々が学習を通じて「自らの歴史をつくる主体」となることの大切さを訴えています。私たちが「歴史を作る主体」となるためには、まずは歴史を知る必要があります。人々の基本的権利としての学習権を確立し充実させていくために、歴史の研究と教育は重要な役割を担っています。

時間軸の物差し

 2008年のリーマン・ショックに対して、「100年に1度の金融危機」という形容がなされました。この事例のように、私たちは、目の前で起こっている事象の重大性を理解しようとするときに、しばしば時間軸の物差しを用います。「○○年に1度」という物差しは、“歴史は繰り返す”という経験則を前提にしています。世の中で起こる事象は、厳密にいえば、すべて1度限りのことです。「1度限り」という観点から眼前の事象の背景や原因そして展望を考える際にも、時間軸の物差しが手助けとなります。

歴史研究の愉しみと役割

 歴史研究の対象は、過去に起こった事象です。史料を発掘して整理し、分析を行います。この作業を通じて、新たな歴史的事実を見つけ出したり、新たな歴史解釈を提示したりします。こうした地道な過程それ自体が、歴史研究の醍醐味です。それと同時に、歴史研究は、こうした過程を積み重ねることによって、上で述べた時間軸の物差しを提示してきました。それらの物差しの長さは様々ですし、それに付けられている目盛りも様々です。眼前の事象を測定する際の“当てはまり”の良さが、それらの物差しの評価を決めます。“当てはまり”を向上させることは、歴史研究にとって大切な役割です。このように、歴史研究は、私たちが生きる今現在を念頭に置きながら、過去の事象に向き合う研究であるといえます。

農業経済学における農業史研究

 この農業史研究室が所属する農業・資源経済学専攻のディシプリンは農業経済学です。現代の資本主義経済のなかにあって、世界の多くの地域において農業は農民の家族経営によって営まれています。巨大企業が優越的な位置を占めている農業以外の産業との大きな違いです。ここに、農業経済学という研究領域が成立する根拠があります。農民は、資本主義が成立する以前から存在しました。資本主義以前においては、むしろ支配的な生産様式でした。農民を主要な研究対象とする農業経済学において、農民の生業や生活あるいは農村社会を歴史的観点から分析することは重要な研究課題です。

農業史研究の課題

 農業経済学という文脈において、農業史研究にはふたつの課題があります。ひとつは、近代資本主義が成立して以降、資本主義的市場経済とのかかわりの中で農民の生業や農村での生活様式がどのように変化してきたのかについて明らかにすることです。もうひとつは、近代資本主義成立以前に遡って、いつ頃にどのような過程を通じて農民という生業の形態あるいは農村での生活様式が成立し、その後どのような変化を経ながら近代にいたるまで再生産されてきたのかについて論じることです。農業の形態はそれが営まれる自然環境に強く規定されます。農民の生業や生活の形態は地域ごとに多様なものとなります。他方で、資本主義の形態においても、国民経済単位ごとに異なる類型が生じます。上に挙げた農業史研究のふたつの課題に取り組むためには、地域どうしを比較する比較史の視点からの分析が重要となります。

農業史研究室のあゆみ

準備中。

古島敏雄先生について

準備中。

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