UBI seminar (47th) 2019年11月28日(木) 13:00~14:00
 場所:東京大学本郷キャンパス
   理学部1号館413室(参加者多数の場合は1320号室)  
 講演者: 高田啓
(Department of Molecular Biology, Umea University, Laboratory of Molecular Infection and Medicine Sweden)

 講演タイトル:微生物は翻訳装置を標的とする抗生物質から如何にして生き残るのか?

概要:1943年にWaksmanが結核菌等の病原菌に対する抗菌性を指標にストレプトマイシンを見出し、抗生物質と命名して以後、様々な新規抗生物質が見いだされて、今日に至っている。これら抗生物質は臨床の現場に限らず、農業・漁業など第一次産業においても汎用されてきた。抗生物質の恩恵を受け、人類の生活水準は飛躍的に向上してきた一方で、乱用による耐性菌の出現や環境汚染など、近年ではこれら問題が顕著化してきている。2050年にガンによる死亡件数を超え、何も対策を施さない場合、3秒に1人が抗生物質耐性菌に起因する感染症により死亡するという推測もある。このような状況で、抗生物質の詳細な作用機構の理解と、その抗生物質から如何にしてバクテリアは生き残るのか、その生存戦略の理解が急務である。 抗生物質の大半は翻訳装置であるリボソームをターゲットとする天然化合物に由来し、土壌微生物の放線菌によって生産される。興味深いことに、自身のリボソームを守るため放線菌が保持する自己耐性遺伝子(ABC-Fタンパク質)が、非生産菌である多くのバクテリアで保存されていることがわかった。これらタンパク質はABCタンパク質ファミリーに一般的な膜貫通ドメインをもたず、他の膜タンパク質と共役して働くことで、トランスポーターとして抗生物質の排出には寄与していると長年考えられてきたが、その詳細な作用メカニズムは不明であった。 我々は、グラム陽性菌のモデル生物である枯草菌を用いてABC-Fタンパク質(VmlR)による抗生物質耐性機構の解明を目的に、遺伝学的、生化学的な解析に加え、クライオ電子顕微鏡単粒子構造解析を行い、VmlRがリボソームに直接結合し抗生物質をリボソームから遊離させることで、抗生物質耐性に寄与していることを明らかとした。本発表では、VmlRが如何にして抗生物質耐性に寄与しているか、その分子メカニズムに関して紹介できればと思う。

Murina V, Kasari M, Takada H, Hinnu M, Saha CK, Grimshaw JW, Seki T, Reith M, Putrinš M, Tenson T, Strahl H, Hauryliuk V, Atkinson GC (2017) ABCF ATPases involved in protein synthesis, ribosome assembly and antibiotic resistance: structural and functional diversification across the tree of life. J Mol Biol. 2018. Dec 28. pii: S0022-2836(18)31288-9. Crowe-McAuliffe C, Graf M, Huter P, Takada H, Abdelshahid M, Nováček J, Murina M, Atkinson GC, Hauryliuk V, Wilson DN (2018) Structural basis for antibiotic resistance mediated by the Bacillus subtilis ABCF ATPase VmlR. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, doi/10.1073/pnas.1808535115 Takada H, Murina V, Crowe-McAuliffe C, Murina V, Atkinson GC, Wilson DN, Hauryliuk V. (2019) submitted