概要:
アデノシン三リン酸(ATP)は細胞の活動に重要なエネルギー通貨である。ATPの合成・消費のバランス機構は未だに解明されていない点が多く残されている。従来のATP計測手法では細胞内ATP濃度を一細胞レベルで正確に定量計測することが困難であった。発表者らは過去に、バクテリアの細胞内ATP濃度をレシオメトリックな蛍光変化で定量計測する単一蛍光色素型の蛍光ATPプローブ”QUEEN”を開発した。最近、われわれは25℃での使用に限定されていた以前のQUEENに変異を加え、さまざまな温度条件に対応したQUEENのシリーズを開発した。37℃に対応した
“QUEEN-37C”と名付けたバージョンの測定値は、ルシフェラーゼ発光によるATPアッセイの結果ともよく一致することが確かめられた。
われわれはこのQUEEN-37CのATP単一細胞計測の有用性を示すため、異なる細胞種での単一細胞ATP濃度分布の比較や、上皮細胞の代謝阻害剤添加時の細胞内ATP濃度変動の単一細胞解析を行った。こうした解析から、細胞内ATP濃度は標準的な培養条件下ではおおむね3-7
mM程度に保たれているものの、細胞の種類や状態ごとにどのような経路でATP合成を行っているかはかなり異なることが明らかになった。本発表では最新の結果を共有し、単一細胞代謝状態測定が増殖や分化、細胞内分子の安定化などの複雑な生命現象の詳細な解明にどのような貢献ができるかについて議論したい。