細胞質ダイニンの運動機能については長年研究が進められてきた。細胞内においてダイニンは微小管プラス端への局在とベシクルへの局在が見られている。ベシクルは双方向の動きをしたり、時折ダイニンの進行方向と考えられる微小管マイナス端方向への長距離な移動をするなど様々な運動が観察されている。またプラス端への局在では、ダイニンは自ら運動能を発揮していないように思われる。このように細胞内では様々な形で制御を受け、単純ではない挙動を示している[1]。一方で精製したダイニンをin
vitro gliding assayの系で調べてみると、微小管は見事に
一方向性の運動を示し、速度のばらつきも大きくない1。ところが、精製したダイニンの一分子観察を行うと、一方向性の運動など全く示さず、拡散的な挙動を示す事が知られている。このような挙動に関しては一分子性と多分子性の観点ならびにその際のダイニン分子の形態から優れた研究がなされており、一分子ダイニンに一方向性の運動能が潜在しているとの見解が示されている[2]。
しかしながらこの運動能がどのようにして顕在化するかという点については依然として明らかでは無い。運動能顕在化の制御においては、ダイニンのパートナータンパク質であり、微小管結合タンパク質でもあるダイナクチンの役割が調べられてきた。これまでの研究では、ダイナクチンが有する微小管結合能が運動制御に重要な意味を持つと考えられてきた。だが近年、海外のグループから「ダイナクチンの微小管結合能はダイニン制御と関わりが無い」という考え方が提出された[3]。これに対して、微小管結合能の異なるダイナクチンアイソフォームを用いて比較したところ、これらの微小管結合能と
ダイニン運動能の顕在化との間には対応関係が見られた。そればかりか、微小管結合能の無いダイナクチンアイソフォームはダイニンの微小管結合能までも低下させるという興味深い結果を得た。すなわち、「ダイナクチンの微小管結合能はダイニン制御と関わりが有る」とする考え方を再び提出した[4]。微小管への長時間の滞在がダイニンの潜在的運動能を顕在化させる確率を上昇させているのかもしれない。 また、この研究からダイナクチンの微小管結合そのものがダイナクチン分子内で制御されている可能性を示唆するに至った。現在進めているダイナクチンの微小管結合の分子内制御機構の探索も含めて、ダイナクチンの微小管結合について再考したいと考えている。
[1]: Kobayashi T and Murayama T, PLoS One 2009
[2]: Torisawa T et al, Nat Cell Biol 2014
[3]: McKenny RJ et al, Science 2014
[4]: Kobayashi T et al, PLoS One 2017