概要:分子モーターによるオルガネラ(カーゴ)輸送の広く知られた説明は、 細胞膜上極性因子濃度勾配により細胞骨格の配向が制御され、細胞骨格上のモーター分子が一方向的にカーゴを輸送するというものである。しかし濃度勾配が
カーゴ輸送を直接制御する可能性については議論がないため、この「カーゴ走化性」を理論的に考察した. 表面化学自由エネルギーを有するマクロ粒子(カーゴ)が、空間的に分布する化学成分の化学ポテンシアル勾配に駆動され高濃度方向へ運動する熱力学的現象、ケモフォレシス[1]を過去に提唱したが、今回セミナーでは、カーゴ表面上のミカエリス・メンテン型加水分解反応により化学自由エネルギーを能動輸送に変換する自己駆動粒子、ケモフォレシス・エンジン(CE)を紹介する.
化学成分の拡散を仮定するCE(以下「CE+」)は、加水分解による濃度勾配制御とケモフォレシスの協同効果から 「カーゴが定常進行波上を波乗りする」対称性を破った定常状態が実現し一方向運動を可能にする[2].
CE+はParABS系による細胞内プラスミドDNA能動輸送[3]で観測される一方向運動・均等配置・振動運動といったプラスミド配置のATP加水分解駆動型自己組織化現象を再現できる[1-4].
他方、化学成分が拡散しないCE(「CE-」)はCE+と同様に一方向運動を実現するが、過渡的停滞や自己排除ランダムウォーク様運動も示し、CE+とは異なる異常拡散に帰着することが分かった[5].
CE+/ CE-の動態の統計的区別はプラスミド能動輸送のメカニズム解明[3]に役立つだろう.
[1] T Sugawara and K Kaneko, BIOPHYSICS 7 77(2011).
[2] T Sugawara & K Kaneko, to be submitted.
[3] I V Surovtsev and C Jacob-Wagner, Cell 172 1271(2018).
[4] A Vecchiarelli, K Neuman, and K Mizuuchi, PNAS 111 4880(2014). [5]
T Sugawara, K Kaneko & Y Okada, under research.