UBI seminar
 日時 : 12月20日(金)15:15~16:45
 場所: 東京大学本郷キャンパス理学部1号館413号室
 講演者: 鳥井 孝太郎 (理化学研究所 環境資源科学研究センター)
 演題: トランスクリプトームの生きた動態には個性があり、個体の運命へと繋がっている

要旨: これまでトランスクリプトームがとらえる生命動態には生命体としての連続性がなくlifelessであった。そこで、我々は細胞非破壊的に細胞内容物を抽出可能にするナノ電気力学的サンプリング法を開発し、同一細胞・個体からの連続的なサンプリングとトランスクリプトミクスと組み合わせることで個々の生命体に流れる生きた動態を捉えた。ライブセルトランスクリプトームデータの時間差分をVelocityとして活用し、自己回帰を行うことで細胞ごとに固有の遺伝子制御ネットワークを予測し遺伝子ネットワークの多態性を見出した。胚発生過程のライブセルトランスクリプトームデータでは細胞系譜間でのVelocityの差分、Divergenceが胚の将来的な運命を捉えていることを見出した。そして、生細胞・個体の両方で、個々の生命体の時系列は互いに置き換えることができない個性を持つことが示唆された。これらの結果は、生物の見かけ上の確率過程に隠されてきた動的な個性を理解するためのライブセルトランスクリプトミクスの重要性を明らかにした。本研究は、単一細胞から個体まで、生命体の自発的な個性化を理解するための出発点となり、生命の多様性における根本的な法則の解明に寄与することが期待される。