理学系附属生物普遍性研究機構の立ち上げにあたって

 「生命とは何か」と言う問いは、科学者に限らず、全ての人にとって、最も根源的な問いの一つではないでしょうか。137億年前にビッグバンにより宇宙が始まり、やがて原子ができ、地球が形成され、約40億年前に生命が誕生したといわれています。では、単なる原子や分子の集まりがなぜ、どのようにして生命と呼ばれるものになったのでしょうか、また、物質と生命を隔てているものは何なのでしょうか?  
 近年、「生命とは何か」を問う機運が再び高まっています。その背景の一つには、生命や私たち人間そのものに対する関心の高まりがあると思います。また、幹細胞やiPS細胞など、一つの細胞が何にでもなり得る万能性細胞に対する一般社会の驚きや再生医療など応用への期待があるかもしれません。一方で、生命や細胞を人工的に合成しようという合成生物学やプロトセル・バイオロジーなどの新しい技術や新分野の出現と相俟って、「もの」と「いきもの」の境界が曖昧となる近未来への予感が、人を、生命とは何なのかという問いに向き合わせているのかもしれません。また、技術の急速な進歩による世界の情報化や機械の知能化が、人と物質世界・情報世界との境目を曖昧にし、生命と精神のよりどころを揺り動かし始めていることとも無縁ではないかもしれません。つまるところ、「生命とは何か」は、知能とは何か、そして我々人間とは何かを問う、普遍的な問いであると言えます。  
 東京大学は、人類のこの根源的な問いに立ち向かう新たな学問領域の創成を目指し、生物普遍性研究機構を設立しました。いままで、複数の部局や研究所でばらばらに行われていた理論生物学や定量生物学、合成生物学などの新分野の研究者を結集し、連携させるとともに、国内外の研究者との共同研究を積極的に推進するために、この機構は結成されました。技術の進歩により、遺伝情報、たんぱく質の振舞い、代謝産物など生命に関する多様で膨大なデータが手に入るようになりましたが、生物のシステムとしての性質やビッグデータの奥にどんな普遍的な性質や法則があるのかまだ我々は知りません。数理と物理の手法により、生物科学に横串を通し、あらゆる生物に共通する普遍的なメカニズムや法則を解明することを目的に本機構は設立されました。この目的のために、学部初年時から学部後半、大学院の教育と世界最先端の研究を融合させた教育研究を展開することも本機構の目的の一つです。
 設立した機構には、5つの部門を設けました。解る(理論部門)、辿る(動態部門)、創る(構成部門)、測る(計測部門)、統べる(情報部門)です。それぞれの部門のミッションについては、次のページをご覧ください。 本機構の設立が診断計測技術や創薬、再生医療などのライフイノベーションの創出につながることを期待するとともに、生命科学の新たな潮流を作り出し、人類共通の問いである「生命とは何か」に答えるための学問領域の出発点となることを願います 。

東京大学大学院理学系研究科附属
生物普遍性研究機構
機構長  佐野 雅己