2023年 冬学期 第9回 物性セミナー
講師 渡邉 光 氏 (東大先端科学技術研究センター)
題目 スピン結晶群対称性に基づく物性の解析
日時 2024年 2月 9日(金) 午後4時50分-6時15分前後
場所 16号館 829およびオンライン (注)今期はいつもの827ではなく、829です
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アブストラクト
スピン自由度を利用するエレクトロニクス、いわゆるスピントロニクスの分野は今や物性物理学の一大テーマとなっているが、近年の発展として強磁性体に限らない、様々なタイプの磁性体の実用性が見いだされている。その一例として反強磁性体スピントロニクスが挙げられる[1]。ミクロに補償された磁化のために一見マクロな物性としては特徴のないように思われる反強磁性体であるが、反強的なスピンの配列が結晶構造とうまくカップルすることで強磁性体には見られない新しい物性を示すことが知られている。とりわけ、対称性の破れによって磁性と電気あるいは弾性など種々の自由度が反強磁性秩序を通じたカップルした物質は応用の観点からも興味深い。
これら反強磁性体の機能性発現のための重要なファクタとしてスピン軌道相互作用が挙げられる。実際、多くの電気・磁化の相互変換においてはこの相対論的効果が鍵となっているから、なるべくスピン軌道相互作用の大きい、つまり原子番号の大きな重い元素が不可欠な構成要素として考えられてきた。一方、近年の爆発的な研究により、特殊なタイプの反強磁性体を用いることで相対論的効果を要さずとも、大きなスピン・電荷結合を得られることが明らかになってきている[2]。そこでは反強磁性秩序特有の対称性のために、異方的な交換分裂構造が生じており、相対論的効果の小さな3d遷移金属ベースの物質においても有意なスピン・電荷結合が認められている。
この近年盛んに研究されている一群の反強磁性体は磁性による単位胞の増大を伴わない、つまり結晶の副格子とスピンの反強的配列が一対一で対応して、かつ共線的なパターンを持った系である。ここで更に視点を広げ、単位胞の増大を伴うような場合あるいは非共線的なパターンの秩序を持つ反強磁性体にも同様に相対論的効果を介さない創発的な物性現象は現れうるだろうか?我々はこうした問いに対してスピン結晶群に基づく対称性のアプローチを提案した[3]。この特異な磁気対称性は従来用いられてきた磁性空間群に比してリッチな構造を持ち、共線的・非共線的といったスピン秩序の詳細を反映する。特にスピン・軌道空間の擬似的な分離がどのような知見をもたらすか、という点に焦点を置きつつ、我々の研究を紹介したい。
参考文献
[1] T. Jungwirth et al., Nat. Nanotechnol. 11, 231 (2016); V. Baltz et al., Rev. Mod. Phys. 90, 328 (2018).
[2] S. Hayami et al., J. Phys. Soc. Jpn. 88, 123702 (2019); L.-D. Yuan et al., Phys. Rev. B. 102, 014422 (2020); L. Šmejkal et al., Phys. Rev. X. 12, 040501 (2022).
[3] HW & K. Shinohara et al., arXiv:2307.11560; K. Shinohara et al., Acta Crystallogr. A Found. Adv. 80, (2024).
宣伝用ビラ
KMB20240209.pdf(47)
物性セミナーのページ
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/KMBseminar/wiki.cgi/BusseiSeminar
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最終更新時間:2024年01月28日 11時39分39秒