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物性セミナー/2010-12-3の変更点

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!!!2010年 冬学期 第4回 物性セミナー
!!講師  佐々木孝彦氏 (東北大学金属材料研究所 低温電子物性学研究部門)
!!題目  分子性ダイマー・モット転移に現れる巨大誘電異常 −やわらかい電荷秩序の特異な誘電性−
!!日時 	2010年 12月 3日(金) 午後4時30分
!!場所 	16号館 827

!アブストラクト
分子性導体は分子上に比較的大きく広がった分子軌道と電荷分布や,ほどほどの
大きさのクーロン相互作用によって,やわらかいと形容できる分子間結合,相互
作用を有する系である.このとき電荷スピン分子格子分子内結合の間にはやわら
かく複合的な自由度が存在し,多彩な電子基底状態が外的刺激に敏感に応答して
現れる.特に$\kappa$型と呼ばれる分子配列をもつ分子性導体$\kappa$-(BEDT-TTF)$_2$Xは,BEDT-TTF分
子の比較的強いダイマー構造のために分子ダイマーあたり+eの電荷(ホール)を有
する三角格子ダイマーモット型の電子状態になっている.この分子ダイマーは異
方的な三角格子を組み,その異方性が大きい場合は低温で反強磁性モット絶縁体
状態になる.このときに静水圧力の印加などによりバンド幅を広げると1次相転
移(バンド幅制御型モット絶縁体−金属転移)を経て超伝導状態が現れる.最
近,この三角格子の異方性が小さい物質,$\kappa$-(BEDT-TTF)$_2$Cu$_2$(CN)$_3$においては極低
温度(T = 30 mK $\ll$ J = 250 K)まで反強磁性長距離秩序があらわれないことが
NMR実験などにより示された[1].極低温度まで磁気秩序が現れない原因は分子ダ
イマー上のモット絶縁体状態にある電荷のS = 1/2スピンが三角格子スピンフラ
ストレーションにより長距離秩序化せずスピン液体状態が実現しているものと考
えられている.このスピン液体状態の磁気励起に関してNMR[1],比熱[2],熱伝
導度[3]の実験,種々の理論提案からギャップレス,非常に小さいギャップあり
などの議論が続いている. 

最近,我々は$\kappa$-(BEDT-TTF)$_2$Cu$_2$ (CN)$_3$の低周波誘電率を調
べ,比較的高温におけるこの物質の誘電応答が特殊であることを見出した[4].
およそ60 K以下で誘電率が低温に向かって増大しはじめ,顕著な周波数依存性を
示す.この振る舞いは,リラクサー誘電体に見られる誘電分散とよく似ており,
結晶中に分極がそろった領域が不均一に生じていることを示唆している.電荷不
均一や電荷秩序を示す分子性導体(絶縁体)では強誘電性を示すものもあるが,
この物質は分子ダイマー上にホールが均一に局在したモット絶縁体と考えられて
いるため分極が生じる状況は通常考えられない.我々
は,$\kappa$-(BEDT-TTF)$_2$Cu$_2$(CN)$_3$においてはBEDT-TTF分子ダイマー
にゆるやかに局在したホールがダイマー間のクーロン斥力によって互いに避け合
う結果,分子ダイマー内で電荷分布の偏りが生じ,電気双極子モーメントが生じ
る可能性を考えている.このような分子ダイマー上に生じる電気双極子のシナリ
オが正しければ電子的機構による誘電性が発現していることを意味している.ま
た,これまで幾何学的スピンフラストレーションによるスピン液体が議論されて
きたが,電荷不均一シナリオによれば電荷液体起源によるスピン液体状態も考え
うる[5].実験結果の詳細とともにこれまでスピン液体として報告されてきた結
果との対応についても言及したい. 

本研究は,以下の方々との共同研究,議論によって行われています. (敬称略)M. Abdel-Jawad(理研),寺崎一郎(名古屋大),米山直樹(山梨大),堀田知佐(京産大),上江洲由晃 (早稲田大),小林典男,岩井伸一郎,石原純夫(東北大),後藤貴行(上智大),野上由夫(岡山大) 岸田英夫(名古屋大),山下譲,松田祐司(京都大),M. Lang, R. Valenti (Frankfurt Univ.)

[1]Y. Shimizu et al., Phys. Rev. Lett. 91, 107001 (2003).

[2]S. Yamashita et al., Nature Physics 4, 459 (2008).

[3]M. Yamashita et al., Nature Physics 5, 44 (2009).

[4]M. Abdel-Jawad et al., Phys. Rev. B82 125119 (2010).

[5]C. Hotta, aXiv:0912.3674.



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