2024年の活動報告

2024年は,福島県浜通りの帰還困難区域の調査を計13回行いました.また,福島県の小中学校を中心に計1080名の児童・生徒と一緒に放射線について考える機会を得ることができました.成果として査読論文3報,解説1報を出版することができました.すべて皆様からの温かいご支援あってのことで,改めて心より御礼申し上げます.

私どもが調査を行う帰還困難区域とは,文字通り帰還が困難なほどに放射性物質による汚染が発生してしまっているエリアです.今日現在で307平方キロメートル,東京23区の半分くらいの面積が帰還困難区域に指定され,たとえ住民だった方であっても(もちろん研究者も)立ち入りには厳しい制限が敷かれています.帰還可能な環境を目指して,帰還困難区域内のごく限られた場所で放射性物質を取り除く除染作業が行われていますが,様々な理由で除染が行われない場所も多く,特に山間部では除染が行われることはないと予想されます.

そのため,帰還困難区域内の未除染区域や耕作放棄地,山間部における放射性物質の実際の情報は未知のままです.「山からどれくらいの量の放射性物質が下りてくるのか」「この川の魚はいつ基準値を下回るようになるのか」「この土地で米はいつ作れるようになるのか」といった疑問に答えるだけの情報が帰還困難区域内ではほとんどない状況です.

そこで,小豆川研では,「放射性物質が土に含まれていても作物に移行しないようにする工夫」を2022年から,そして「河川から海に放射性物質がどのように移動していくのか,魚をマーカーとして使った解析」を2021年から進めています.

作物については試行錯誤を経た末に,放射性セシウムで高濃度に汚染された土(最大18万ベクレル/kg)で栽培したコメであっても基準値(100ベクレル/kg)以下になるよう生育することに成功しました(2023年).これまでに各研究機関で開発されてきた放射性物質の低減方法よりも10倍以上の効果があります.さらに本手法は放射性セシウムの一般的な低減策であるカリウムの施肥を必要としない特徴もあることから,生育にかかる手間を削減できるメリットもあります.2024年では双葉町内の帰還困難区域内で畑を開き,これまでのノウハウを現地に投入する実地での試験栽培を進めています.

こちらに現地の解説映像2本があります.ぜひご覧ください!


魚については,福島県の許可のもと,帰還困難区域内で魚を採取,各パーツに含まれる放射性物質を分析し,魚種別の摂餌物と筋肉部の放射性物質濃度の相関,生息域の違いを考察し,少しずつですが知見が積み重なってきました.明確な例としては「魚が大きく(重く)なればなるほど,放射性物質濃度は高くなる」「同じ河川でも渓流部の魚の方が汚染度が高い」などが言えます.

福島第一原発事故はこれまでに日本が経験したことのない一大環境汚染であるにもかかわらず,東京大学内では帰還困難区域内での汚染調査に携わる研究者が極めて少ない特徴があります.地道にコツコツと分析を続けながら,より良い環境改善の方法を提言していくことが何よりも大事だと考えています.

私どもの研究室の研究資金は,皆様からのご寄付(37万7000円/2024年)の他,大学運営費(31.7万円/年,実際に使える分は10万円程度)の他,文科省科学研究費(基盤B,5年間で1380万円,2024年度は約120万円)によって成り立っています.寄付金は現地での調査費用や分析機器の改善などにフル活用させていただきました.2024年度からは助教の身分では初めてとなる東京大学基金のプロジェクトに単独参加し,より高精度かつ高速度で現地の分析を行うことができる移動式の分析装置(ラボカー)の開発にも着手しています.本件をぜひ多くの方にご周知いただければ幸甚でございます.
測定で応援!オールインワン放射線測定による復興支援基金

ラボカー搭載予定の「スカウター式」空間線量率計の映像はこちら!(映像は2014年です,画面下の数値(AVG)が空間線量率です)
帰還困難区域内での車両による空間線量率の測定

私どもの研究室は文字通り吹けば飛ぶような脆弱な研究体制ではありますが,少しでも現地の環境が改善される手法を研究開発していきたいと思います.そのためには我々の研究が多くの方から支援されているのだと大学上層部に理解してもらうことが重要です. 引き続き暖かいご支援賜りますようお願い申し上げます.

この研究は原発事故被災者の方からも多くのご支援をいただいています.研究費のご寄付だけでなく,現地でも力強いバックアップをいただいています.重ねて,深く御礼申し上げます.本当にありがとうございます.

東京大学を介した私どもへのご寄付分については所得税・住民税の優遇措置を受けることができます.お住まいの地域によっても控除の割合が変わってきますので,詳細は下記のシミュレーターを使って控除額の計算に用いていただければと思います.(また東大へのご寄付はふるさと納税の上限額とは関係しません)
控除額シミュレーター

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