中分子ペプチド創薬

生体内では、タンパク質や核酸などの生体分子が複雑な形を造り、お互いに分子認識して相互作用することで生命現象を担う機能を発揮しています。こうした分子の造形原理と分子認識の理解は、生命現象の操作を可能とする分子ツールの創出、ひいては、新たな創薬の実現へとつながると期待されます。私たちは、ペプチド創薬の実現に向けた研究を展開しています。

高い細胞膜透過性を示す環状ペプチドのデザイン


環状ペプチドは、多様な立体構造を構築でき、精密な分子認識を可能にすることから、次世代の創薬モダリティーとして注目されています。しかし、一般的なペプチドは細胞膜透過性が低く、その創薬応用には依然として大きな制約があります。私たちは、この重要な課題を克服し、ペプチド創薬のブレークスルーを実現することを目指して研究を進めています。

これまでに、独自に開発した膜透過性評価法や詳細な構造解析に基づき、環状ペプチドが細胞膜を通過するメカニズムを解明してきました。その知見をもとに、高い膜透過性を示す環状ペプチドのデザインを実現しています。現在、DNA Encoded Peptide Libraryによる大規模スクリーニングやデータサイエンスを活用し、膜透過性や生理活性を備えた機能性ペプチドの創出に挑戦しています。

[参考文献]
Nature Commun. 2023, 14, 1416.
Chem. Sci. 2023, 14, 345–349.
実験医学 2020, 1月号, 受動的に膜を透過するペプチドとペプトイド.


細胞内タンパク質機能を制御する人工ペプチドの合理設計


ペプチドが抱える低膜透過性の課題を解決する分子として、“ペプトイド”と呼ばれる人工ペプチドに注目が集まっています。私たちは、ペプトイドが示す高い膜透過性を利用して、通常のペプチドでは困難であった、細胞内タンパク質機能の制御を実現しようとしています。ペプトイドに関する独自の合成法と構造に関する知見を積み上げることにより、これまでに、がん関連タンパク質の阻害剤として働くペプトイドの創出に成功してきました。本研究を発展させることで、細胞内タンパク質機能を制御する汎用的な分子技術を実現し、生命科学研究や創薬の発展に貢献していきたいと考えています。

[参考文献]
Chem Sci. 2025, 16, 10512–10522.
Chem Sci. 2024, 15, 7051–7060.
Angew. Chem., Int. Ed. 2022, 61, e202200119.
Chem. Sci. 2021, 12, 13292–13300.
J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 2277–2284.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 14612–14623.
化学 2020, 7月号, ペプチド模倣物質による新しい中分子創薬.
ABC-InFO 「細胞内PPI阻害のための人工中分子ペプトイドの設計」