研究内容

生命現象の理解と疾病治療に貢献する分子化学

ペプチド創薬:ペプチドに基づく次世代バイオ医薬

 生体内では、タンパク質や核酸などの生体高分子がお互いに相互作用することで、様々な生体機能の発現が行われています。こうした生体高分子の相互作用を、化合物を用いて制御することは、生命機能の解明や薬剤開発における重要な研究課題です。生体分子間の広い面積での相互作用を制御する分子として、分子量500–2000程度の中程度の分子量を有する化合物が注目を集めています。特に、ペプチドは、簡便に多様な立体構造を形成する分子を生み出せることから、活発に研究が行われています。しかしながら、通常のペプチドは、生体安定性が低い、免疫原性の懸念がある、生体膜透過性が低い、など複数の課題を抱えており、生体に適用することは困難です。わたしたちは、こうした課題を克服する人工オリゴマー分子を設計し、また進化させることで、生体機能を制御する分子ツールを生み出すことを目指しています。



研究例1.Dアミノ酸を主構成要素とする生体適合性の高い人工オリゴマー分子の探索

 天然のLアミノ酸とは鏡写しの関係にあるDアミノ酸を含有するペプチドは、プロテアーゼに認識されないため、高いプロテアーゼ耐性を示すことが知られています。また、免疫機構に認識されにくいために、免疫原性が低いとも考えられています。そのため、Dアミノ酸からなるペプチドは、薬剤としての高い利用価値が期待される人工オリゴマー分子です。私たちは、Dアミノ酸を主な構成要素とするペプチドの大規模なライブラリー群を構築し、その中から生体分子の機能を制御する生理活性分子を探索する技術を開発しています。この技術によって、これまでに、抗がん剤の重要な標的の一つであるMDM2とp53という2つのタンパク質間の相互作用を阻害するDアミノ酸含有ペプチドの創出に成功しています。本研究は、生体適合性の高いペプチド性阻害剤を獲得する手法として有用であるといえます。

研究例2:生体膜透過性と生体分子親和性を兼ね備えた人工オリゴマー分子の設計

 “ペプトイド”と呼ばれる分子は、生体膜透過性の高いペプチドミメティクスとして知られています。ペプトイドは、N置換グリシンオリゴマーを指す言葉で、アミド窒素上のプロトンが置換基で置き換えられているために、水と水素結合を形成することができず、生体膜透過性が高いことが知られています。しかしながらペプトイドは、主鎖二面角の回転自由度が高いために、剛直な立体構造を形成することができず、生体分子との親和性が低いことが課題でした。私たちは、ペプトイドの主鎖炭素上に不斉置換基を導入することで、特定の配座を安定に形成するペプトイドを設計・合成することに取り組んでいます。さらに、こうして設計した分子の大規模なライブラリーを構築することで、生体膜を透過し、細胞内外に存在する様々な生体分子の機能を制御するような分子プローブの創出を目指しています。