これまでに第2周期p-ブロック元素のアニオンのリチウム塩は、アルキルリチウムやリチウムアルコキシドなど、有機合成化学において試薬として重要な位置を占めてきた。しかし対応するホウ素のリチウム化合物R2BLiに関してはこれまで全く報告が無く、これが存在すればボリルアニオン等価体としての利用が期待でき、合成化学において大きなブレイクスルーとなりうると考えられる。我々のグループでは最近このボリルリチウムの合成と単離に成功しており、その求核種としての興味深い反応性を明らかにしている。また、ボリルリチウムと金属臭化物のsalt
metathesisによりボリルマグネシウム・ボリル銅・ボリル亜鉛類を合成し、これらも同様に求核性のホウ素化合物として利用できることを明らかにした。また、ボリルリチウムを遷移金属塩化物に対してもトランスメタル化することで、対応するボリル遷移金属錯体を簡便に合成することが可能になった。この試みによりボリル銀・ボリル金・ボリルチタン・ボリルハフニウム錯体がそれぞれ世界で初めて合成された。一方でボリルリチウムをボラン-THFと反応させることで、ホウ素置換ヒドロボラート種を合成単離し、これがヒドリドおよび水素ラジカル供与体として作用することも明らかにした。
ボリルアニオン等価体、ボリルリチウムの合成
ボリルリチウムの結晶構造
ボリルGrignard試薬、ボリルマグネシウムの合成
ボリル銅およびボリル亜鉛の合成
ボリルリチウムのトランスメタル化による11族金属ボリル錯体の合成
4族金属ボリル錯体の合成
ホウ素置換ヒドロボラートの合成
(1) Segawa, Y.; Yamashita, M.; Nozaki, K. Science 2006, 314, 113-115. The top page has a link to the article. This article was highlighted in Science, Chemistry World, and C&EN.
(2) Yamashita, M.; Suzuki, Y.; Segawa, Y.; Nozaki, K. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 9570-9571. doi.This article was highlighted in Nachrichten aus der Chemie.
(3) Segawa, Y.; Yamashita, M.; Nozaki, K. Angew. Chem. Int. Ed 2007, 46, 6710-6713. doi. This article was highlighted in Nachrichten aus der Chemie.
(4) Segawa, Y.; Suzuki, Y.; Yamashita, M.; Nozaki, K. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 16069-16079. doi
(5) Yamashita, M.; Suzuki, Y.; Segawa, Y.; Nozaki, K. Chem. Lett. 2008, 37, 802-803. doi
(6) Kajiwara, T.; Terabayashi, T.; Yamashita, M.; Nozaki, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 6606-6610. doi
(7) Terabayashi, T.; Kajiwara, T.; Yamashita, M.; Nozaki, K. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14162-14163. doi
(8) Nozaki, K.; Aramaki, Y.; Yamashita, M.; Ueng, S.-H.; Malacria, M.;
Lacote, E.; Curran, D. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 11449-11151. doi
以上に示したように、我々はホウ素配位子を遷移金属上に求核的に導入する新規なボリル錯体合成法の開発に成功している。しかしながら、ボリル配位子は通常非常に活性であり、金属上から容易に解離してしまう.そこで、我々は新たに、ホスフィン配位子を有する含ホウ素ピンサー型ボリル配位子を設計・合成した.本配位子を有するロジウムおよびイリジウム錯体は高い熱安定性を示し、ボリル配位子が金属上から解離することなく様々な置換基変換反応が可能であった.現在、本ピンサー型ボリル配位子の高い電子供与能を生かした触媒開発を行っている.
(1) Segawa, Y.; Yamashita, M.; Nozaki, K. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 9201-9203. doi. This article was highlighted in Angewandte Chemie.
(2) Segawa, Y.; Yamashita, M.; Nozaki K. Organometallics 2009, 28, 6234-6242. doi
かさ高い置換基を有するピンサー型配位子をIrに導入した錯体群はC-H, N-H, O-H結合を酸化的に切断できることから注目を集めているが、一般には中心金属周りが立体的に混み合っているためこれらの結合切断を利用した触媒反応はほとんど検討されていない。我々は金属周りに空間を配置するためにネオペンチル基を有するピンサー型配位子を設計、合成し、Irと錯形成してメタラサイクルを与えることを確認した。この錯体は配位性官能基を有するアレーン類のCH活性化を起こすことに加え、アルキルアミン類からジアルキルアミン類を効率よく合成するための触媒となることが明らかになった。
(1) Yano, T.; Moroe, Y.; Yamashita, M.; Nozaki, K. Chem. Lett. 2008, 37, 1300-1301. doi
(2) Yamashita, M.; Moroe, Y.; Yano, T.; Nozaki, K. Inorg. Chim. Acta 2010, 363, 15-18. doi