1. 不斉合成反応

1-1. 触媒的不斉ヒドロホルミル化

光学活性化合物は医薬・農薬・香料などの生理活性物質や機能性材料に多く見られ、その効率的合成法の開発は大きな社会貢献になる。遷移金属錯体を用いる触媒的不斉合成は、少量の不斉源からその何倍量もの光学活性化合物を与えるため、その最も有効な合成法として近年目覚しい発展を遂げている。われわれは、反応機構・不斉発現のメカニズムを考慮して緻密に設計した触媒を用いて高効率な反応の実現を目指している。C1資源として注目されている一酸化炭素を用いるオレフィンの不斉ヒドロホルミル化は、光学活性アルデヒドを一挙に構築する方法としてのみならず、資源有効利用としても重要である。われわれが新規に開発した光学活性ホスフィンホスファイト配位子(BINAPHOS)のRh錯体は様々なオレフィンに対し、他に類をみない触媒活性とエナンチオ選択性を実現した。また、Rh-BINAPHOS錯体をポリスチレンに担持することで、触媒の回収再利用をはじめ、溶媒を用いない気相反応、連続流通系反応、光学活性アルデヒドのライブラリー合成など多様な固定化触媒の利用法も開発している。


最近の発表論文

(1) Nozaki, K.; Hiyama, T.; Kacker, S.; Horvath, I. T. Organometallics 2000, 19, 2031-2035.
(2) Nozaki, K.; Shibahara, F.; Hiyama, T. Chem. Lett. 2000, 694-695.
(3) Nozaki, K.; Matsuo, T.; Shibahara, F.; Hiyama, T. Adv. Synth. Catal. 2001, 343, 61-63.
(4) Shibahara, F.; Nozaki, K.; Matsuo, T.; Hiyama, T. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2002, 12, 1825-1827.
(5) Nozaki, K.; Matsuo, T.; Shibahara, F.; Hiyama, T. Organometallics 2003, 22, 594-600.
(6) Shibahara, F.; Nozaki, K.; Hiyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 8555-8560.
(7) Kinoshita, S.; Shibahara, F.; Nozaki, K. Green Chem. 2005, 7, 256-258.  doi
(8) Nakano, K.; Tanaka, R.; Nozaki K. Helv. Chim. Acta, 2006, 89, 1681-1686.  doi
(9) Tanaka, R.; Nakano, K.; Nozaki, K. J. Org. Chem. 2007, 72, 8671-8676. doi

1-2. 触媒的不斉交互共重合

タンパク質や糖、核酸などの生体高分子はいくつもの光学活性中心と官能基をもつ。そして、その絶対配置が正確に規制されることで官能基が三次元的に正確に配置され、分子認識や触媒作用といった生体高分子の特徴的な機能が発現する。これら生体高分子の特色にならい、立体構造が高度に制御された光学活性高分子を合成できれば、人工高分子を用いてさまざまな機能を発現させることが可能になる。このような視点から、われわれは低分子の触媒的不斉合成の手法を高分子合成に応用して、アキラルなモノマーから主鎖に光学活性中心をもつキラル高分子を合成すること(不斉重合)について研究している。

1-2-1. 不斉交互共重合(1) オレフィン類と一酸化炭素の不斉交互共重合

エチレンと一酸化炭素の交互共重合によって得られるγ―ポリケトンは、熱可塑性のエンジニアプラスチックとしての特性を有し、機械的強度や耐薬品性に優れている。また、エチレンの代わりにα―オレフィンを一酸化炭素と交互共重合させると、主鎖に不斉炭素を有するγ―ポリケトンが得られる。われわれは、Pd-BINAPHOS錯体を触媒としてもちい、不斉炭素の絶対配置がほぼ完全にSに制御されたイソタクチック光学活性ポリケトンを合成した。側鎖に機能性置換基を導入すると撥水性、液晶性などの性質を附与できる。また、主鎖のカルボニル基を化学変換することで、同じ光学活性ポリケトンをベースにして種々の光学活性ポリマーを合成した。

最近の発表論文

(1) Nozaki, K.; Sato, N.; Takaya, H. J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 9911-9912.
(2) Nozaki, K.; Sato, N.; Tonomura, Y.; Yasutomi, M.; Takaya, H.; Hiyama, T.; Matsubara, T.; Koga, N. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 12779-12795.
(3) Nozaki, K.; Hiyama, T. J. Organomet. Chem. 1999, 576, 248-253.
(4) Nozaki, K.; Hiyama, T.; Kacker, S.; Horvath, I. T. Organometallics 2000, 19, 2031-2035.
(5) Nozaki, K.; Komaki, H.; Kawashima, Y.; Hiyama, T.; Matsubara, T. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 534-544.
(6) Nozaki, K.; Shibahara, F.; Elzner, S.; Hiyama, T. Can. J. Chem. 2001, 79, 593-597.
(7) Nozaki, K.; Kosaka, N.; Graubner, V. M.; Hiyama T. Macromolecules, 2001, 34, 6168-6169.
(8) Nozaki, K; Kosaka, N.; Graubner, V. M.; Hiyama T. Polymer J., 2002, 34, 376-382
(9) Nozaki, K.; Kawashima, Y.; Oda, T.; Hiyama, T.; Kanie, K.; Kato T. Macromolecules, 2002, 35, 1140-1142.
(10) Iggo, J. A.; Kawashima, Y.; Liu, J.; Hiyama, T.; Nozaki, K. Organometallics 2003, 22, 5418-5422.
(11) Kawashima, Y.; Nozaki, K.; Hiyama, T.; Yoshio, M.; Kanie, K.; Kato T. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 2003, 41, 3556-3563.
(12) Kosaka, N.; Nozaki, K.; Hiyama, T. Macromolecules, 2003, 36, 6884-6887.
(13) Kosaka, N.; Oda, T.; Hiyama, T.; Nozaki, K. Macromolecules, 2004, 37, 4484-4487.
(14) Kosaka, N.; Hiyama, T.; Nozaki, K. Macromolecules, 2004, 37, 4484-4487.
(15) Fujita, T.; Nakano, K.; Yamashita, M.; Nozaki, K. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 1968-1975.   doi

1-2-2s. 不斉交互共重合(2) エポキシドと二酸化炭素の不斉交互共重合

エポキシドと二酸化炭素との交互共重合反応は,二酸化炭素を化学製品として固定化する手法として最も注目されている反応のひとつである.得られるポリカーボナートは今後プラスチックとしての利用が考えられるが,主鎖の立体規則性を制御することで,より高い機能を備えた材料として期待できる.われわれは,キラル亜鉛錯体をもちいて,世界に先駆けてエポキシドと二酸化炭素の不斉交互共重合に成功した.

最近の発表論文
(1) Nozaki, K.; Nakano, K.; Hiyama, T. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 11008-11009.
(2) Nakano, K.; Nozaki, K.; Hiyama, T. Macromolecules 2001, 34, 6325-6332.
(3) Nakano, K.; Nozaki, K.; Hiyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 5501-5510.
(4) Nakano, K.; Hiyama, T.; Nozaki, K. Chem. Commun. 2005, 1871-1873.   doi