要旨:腸内細菌叢を含む常在細菌叢研究は、シークエンス技術の発展と共に近年飛躍的に進歩しており、宿主の健康に密接に関与することが明らかになっている。さまざまな年齢のヒト腸内細菌叢が年齢毎に特徴的な菌叢構造を取ることから、常在細菌叢は生後成長に伴って個体に特有に形成されていき、生涯にわたって長期的に変容していくと考えられているが、一生にわたる変動を同一個体で追った研究は未だ無い。また、無菌マウスの寿命が通常マウスと異なることが知られており、腸内細菌叢の一生にわたるダイナミクスは、寿命や様々な機能低下と密接に関連を持つと予想された。そこで我々は、同腹のSPFマウス(B6)9匹について、生後直後から死亡まで、定期的に糞便の採取を行い(平均4.3日に1回サンプリング)、細菌叢の変動を詳細に追う実験を開始した。これらのマウスは遺伝的には同一で、同じ施設内で生まれ育ったにも関わらず、成長に伴って多様な形質を示し、寿命や死因も様々であった。腸内細菌叢の解析では、それらの多様な形質に関連すると思われる菌叢の変化や、腸内細菌叢のダイナミクスと寿命の強い相関が確認された。また、各細菌種の時系列ダイナミクスは、大きく9つのタイプに分けることができ、増減のパターンや、各細菌種の滞在時間は、系統ごとに大きく異なることが明らかになった。一生にわたるサンプル中での各OTUの観察頻度のヒストグラムは二峰性を示し、一生にわたって存在する「ライフコアマイクロバイオーム」が、その他の一過性の細菌群とは異なったメカニズムで定着している可能性が示唆された。このような機能低下との相関や細菌群の定着に関する特徴は、ヒト常在細菌等においても普遍的に見られる可能性があり、さらなる研究が期待される。本セミナーでは、ヒトにおける前向き研究が困難な、宿主の一生における腸内細菌叢の時系列変動をマウスで追った研究の最新の成果を報告し、観測された腸内細菌群のダイナミクスが宿主生理に及ぼす影響や、細菌と宿主の共生関係について、議論していく予定である。