概要:
哺乳類の成体では細胞が絶えず失われているが、それが細胞分裂により補われるしくみはほとんど分かっていない。近年のクローン染色実験によって、皮膚の幹細胞の運命選択(分化=消失または分裂)は細胞自律的な確率過程に従うとされた。しかし、皮膚幹細胞が擬二次元系であることと関連して、細胞が本当に自律的に運命を決めているのか、空間的に近い細胞の運命の間に相互作用があるのかは、実のところ未解明であった。今回われわれは、マウスの皮膚幹細胞を1週間にわたり観察した新しいデータと、組織の次元によらずに運命の空間的相互作用を定量できる新しい統計解析法を組み合わせ、分化によって生じた穴に隣接する細胞が分裂によりその穴を埋めていることを発見した[1]。本講演では、成体組織恒常性の研究の歴史に少し触れた後、幹細胞の運命選択がCritical
birth death processやVoter
modelなどのマクロ非平衡物理とどのように関わるのかを述べ[2]、最近の実験データを紹介する。
[1] Mesa, Kawaguchi et al., Biorxiv (2017) doi: https://doi.org/10.1101/155408
[2] Yamaguchi, Kawaguchi, and Sagawa, Phys. Rev. E 96, 012401 (2017)
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