UBI seminar (10th) 2017年5月24日 12:10-13:00 
 場所:東京大学理学部1号館 413号室
 講演者:藤井雅史 氏(東京大学)
 講演タイトル:
 細胞内情報伝達における小体積効果
 ~神経細胞スパインに学ぶRobust, Sensitive, Efficientな情報コーディング~

概要:
生命は様々な反応で成り立っているが、その反応場である細胞、あるいは細胞内小区画は非常に小さい。例えば、本発表の対象である神経細胞のスパインは、0.1–1µm3と非常に小さく、反応のゆらぎが非常に大きくなってしまう。一方、スパインは神経細胞間の情報のやりとりを行う、いわば情報のプラットフォームであり、情報を正しく伝達する必要がある。ではスパインはどのようにして、また何故、小さな反応場で情報を伝達しているのだろうか?そこで我々は、神経細胞プルキンエ細胞のスパインの確率的反応モデルを用いて、他の神経細胞から刺激を下流のCa2+上昇まで伝達する過程を再現し、スパインにおける情報伝達の利点を探った。Ca2+上昇の分布から相互情報量を用いた解析したところ、スパインでの情報伝達は、同じ反応を細胞体スケールの反応場で行うよりもrobustでsensitiveかつefficientであることを見出した[1]。さらに、それらの特性が現れるためのメカニズムを解析したところ、robustnessはCa2+応答の揺らぎの大きさに、sensitivityは他の神経細胞からの小さな刺激に対する確率的な応答に、またEfficiencyは体積依存的な情報量伝達と小ささ限界によるものであることが明らかとなった。揺らぎの大きさや確率的な応答は、体積の小ささ故に現れる特性(小体積効果)であることから、スパインは情報伝達の利点を得るために極限まで小さくなった可能性を示唆する[2]。 本発表ではこれらスパインの情報伝達の利点とメカニズムに関する発表を通して、より広い系での「小ささが持つ利点」について議論したい。
[1] T. Koumura, H. Urakubo, K. Ohashi, M. Fujii, and S. Kuroda, PLoS One 9, e99040 (2014).
[2] M. Fujii, K. Ohashi, Y. Karasawa, M. Hikichi, and S. Kuroda, Biophys. J. 112, 813 (2017).
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