概要:
真核細胞にはさまざまな形態をした生体膜からなる細胞小器官(オルガネラ)があり、それぞれの形態と深くリンクした細胞機能を担っている。オルガネラの形態は電子顕微鏡等により観測・理解が進められているが、その小ささ故、その動態の直接観測は困難である。一方、オルガネラサイズの物体の運動・変形においては熱ゆらぎが支配的となり、その形態形成に自己組織的メカニズムが働いていることが期待される、そこでこの性質に注目して、物理に基づいたオルガネラ動態の理解を目指している。
ゴルジ体はほとんどの真核細胞にみられる普遍的なオルガネラで、細胞内の膜およびタンパク質輸送のhubとして機能している。ゴルジ体自身が脂質膜でできた扁平な袋状の槽が複数重なった特徴的な形態をしており、この形態と機能が深く結びついていると考えられているが、形態がどのように作られ維持されているかは、解明されていない。本研究では、膜物性に基づいたゴルジ体の物理モデルを作りその形成過程を再現することでそのメカニズムを調べた。哺乳類細胞の細胞分裂においてゴルジ体は、一度小胞にまで分解され、その小胞が娘細胞に分配されて集合することにより、再びゴルジ体構造を形成することが知られている。この過程を物理膜シミュレーターで再現することにより、ゴルジ由来小胞の集合プロセス、膜の融合プロセス、膜形態の緩和プロセスの時間スケールが適度な関係を保つことにより、ゴルジ体構造が自己組織化的に形成される事を見出した。特に、膜融合プロセスは、ゴルジ体の層形成と密接にかかわっており、膜融合活性を調整することにより、活性が低い場合は小さい層が多数重なった構造を作るのに対し、活性が高い場合は少数の横に大きく広がった層が形成されることを見出した。
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