2009年 冬学期 第8回 物性セミナー
講師 高橋大輔氏(理化学研究所)
題目 超流動4He中における量子渦
日時 2010年 1月 15日(金) 午後4時30分
場所 16号館 827
アブストラクト
超流動He中においては、循環の量子化に伴い渦度が量子化(量子渦)するため、液体中に存在する全ての渦が同一の渦度を持つことは周知のとおりである。我々理研河野グループは量子渦に関して下記の二点に興味を持ち研究を行っている。本セミナーでは、これらについての実験結果と今後の発展について発表、議論したい。
(i)量子渦核生成
量子渦核生成は流体中の速度が臨界速度を超えることで生じる。核生成課程は巨視的トンネル効果の候補として非常に興味深い。Lancaster大のグループはTime-of-Flight法を用いて負イオンを臨界速度以上に加速し、渦生成に伴う飛行速度の指数的減衰より生成率を求めた。これにより核生成が巨視的量子トンネルによる可能性が指摘された[1,2]。一方、Time-of-Flight法を用いた実験ではイオンの速度を連続的に変化させることが困難であり、臨界速度を直接観測するのは難しい。そこで我々はイオン速度を連続制御できる二次元イオン系を用いて臨界速度の測定を行い、実験的にこれを決定することに成功した。
(ii)Kelvin波励起
近年、超流動ヘリウムにおける量子乱流状態の慣性領域におけるエネルギースペクトルが粘性乱流と同様にKolmogorov則に従い変化することが実験的、および理論的に明らかになった[3]。一方、量子乱流のエネルギー散逸メカニズムに対し、計算機シミュレーションの結果は下記の答えを提示している[4]。「量子渦に励起された螺旋状の波であるKelvin波の非線形相互作用によるエネルギーカスケード課程の存在(Kelvin波カスケード)。その結果、波長が原子スケールまで短くなり、熱浴に対し素励起(phonon)を放出しエネルギーを散逸する」メカニズムである。Kelvin波カスケードの実験的観測は、孤立した渦糸ないし渦輪のダイナミクスを研究しなくてはならず、実験的困難さよりこれまでなされていないのが現状である。現在、我々はHe自由表面直下に形成することができる二次元イオン系を用い、回転下で量子渦終端点にトラップさせKelvin波を励起する実験を試みている。現時点での予備実験結果を紹介する。
[1] P.C. Hendry et al., Phil. Trans. R. Soc. Lond. A, 332, 387(1990)
[2] C.M. Muirhead et al., Phil. Trans. R. Soc. Lond. A, 331, 433(1984)
[3] W.F. Vinen et al., Phys. Rev. Lett., 91, 135301 (2003)
[4] W. F. Vinen and J. J. Niemela, J. Low Temp. Phys. 128 (2002) 167-229
宣伝用ビラ
KMB2010-0115.pdf(681)
物性セミナーのページ
http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/FSwiki/wiki.cgi/BusseiSeminar
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最終更新時間:2009年12月25日 10時22分37秒