太陽系外における地球類似惑星の気候進化

 太陽系外惑星は,その候補天体まで含めると,すでに数千個も発見されています.この宇宙には,地球とよく似た「地球類似惑星」(Earth-like planets) が多数存在することは間違いないでしょう.しかし,地球のように生命を擁する「ハビタブル」(生命生存可能)な惑星の条件は,実はまだほとんど分かっていません.

 ハビタブル惑星の条件のひとつに,液体の水の存在があります.地球のように惑星表面に液体の水(=海)が存在できる軌道条件は「ハビタブルゾーン」(生命生存可能領域) と呼ばれます.ハビタブルゾーンより内側では海水がすべて蒸発する「暴走温室状態」,それより外側では海水がすべて凍結する「全球凍結状態」になります.地球はハビタブルゾーンにあるためハビタブルなのだと考えられます.系外惑星系のハビタブルゾーンに軌道を持つ惑星の探索が行われており,すでにいくつかの惑星が発見されています.

 しかし,たとえ地球のような惑星がハビタブルゾーンにあっても,それは地表面に海が存在できるための必要条件であって,十分条件ではありません.大気の温室効果が不十分であれば全球凍結してしまいます(研究紹介「太陽系外におけるスノーボールプラネットの存在予測」参照).

 地球は炭素循環によって大気中の二酸化炭素濃度が自律的に調節され,温暖湿潤気候が実現・維持されていると考えられています(研究紹介「炭素循環と地球環境の進化」参照).これは,二酸化炭素の消費プロセスである大陸表面の化学風化反応(鉱物の溶解反応)が持つ温度依存性が,システムの安定化機構(負のフィードバック機構)として働くからです.「ウォーカーフィードバック」として知られるこのメカニズムの存在が,地球が数十億年にわたって温暖湿潤気候を維持してきた理由であると考えられています.では,もし地球の軌道が違っていたとしたらどうなるのでしょうか?

図1:気候モード

 私たちは,地球の境界条件を変えた場合,“惑星地球”がどのような気候状態を取り得るのか,気候モデルと炭素循環モデルの結合モデルを開発し,太陽放射(=日射量)と地球内部からの二酸化炭素の脱ガス率(=火山活動によって大気に供給される二酸化炭素のフラックス)の2つの条件を系統的に変えた多数の数値計算を行うことによって詳しく調べました(Kadoya and Tajika, 2014).まず,二酸化炭素の脱ガス率を現在の地球条件に固定して,太陽放射のみを変えた場合の結果を図1に示します.ハビタブルゾーンとそれよりも内側の軌道条件までの範囲において,実現される気候状態はいくつかの「気候モード」に分類できます.この結果から,現在の地球のような温暖湿潤条件(温暖気候モード)は,ハビタブルゾーンの内部にあっても限られた軌道範囲のみで実現される,ということが分かります.ハビタブルゾーンの外側軌道領域においては,全球凍結状態(全球凍結気候モード)になってしまうのです.このことは,気候安定化メカニズムとして地球の気候を自律的に維持してきたウォーカーフィードバックにも限界があることを示すものです.

図2:気候ダイヤグラム

 次に,日射量に加えて二酸化炭素の脱ガス率も変えた場合について,日射量vs二酸化炭素脱ガス率のダイヤグラム上に気候モードをマッピングしたものが図2です.二酸化炭素の脱ガス率が高い条件では,ハビタブルゾーン全域で温暖気候モードとなることが分かります.これは,ウォーカーフィードバックが有効に機能することを意味します.ところが,二酸化炭素の脱ガス率が低い条件(現在の地球条件程度よりも低い場合)には,ハビタブルゾーンの大部分が全球凍結モードになることが分かりました.二酸化炭素の脱ガスは,炭素循環を駆動する意味において,本質的に重要な要素であることが分かります.

図3:惑星進化と恒星進化

 一方,惑星内部からの二酸化炭素の脱ガスは,火成活動にともなう火山ガスの放出によって生じます.火成活動度は,惑星内部の熱的な状態と密接に関係し,惑星内部が時間とともに冷却すること(熱進化)によって,火成活動度も低下すると考えられます.惑星内部の熱進化モデルと脱ガスモデルを組み合わせて計算を行うことで,二酸化炭素の脱ガス率の時間的な低下を推定することができます(図3実線).これに対し,主系列星は,進化とともにその光度が増大することが知られています(図3点線).
そこで,恒星進化と惑星内部の熱進化の結合モデルを用いて,地球の軌道をさまざまに変えた場合,恒星の光度進化と惑星の熱進化にともなって,
図4:惑星進化と恒星進化
惑星の気候状態はどのような進化をたどるのか(これを「気候進化トラック」と呼ぶことにします)について調べた結果を図4に示します(Kadoya and Tajika, 2015).地球軌道(1 天文単位)の場合,気候進化トラックは常に温暖気候モードにあることが分かります.しかしながら,たとえば火星軌道(1.4天文単位)の場合,初期には温暖気候モードにあるものの,進化の途中(この計算条件では約30億年)から全球凍結モードになってしまうことが分かります.地球よりも内側の軌道だと,最初は温暖気候モードでも,すぐに高温気候モードを経て暴走温室モードになってしまいます.地球がずっと温暖湿潤な気候状態を維持してこられたのは,もしかするとハビタブルゾーン内部の限られた軌道領域で形成されたことが重要だったという可能性が示唆されます.

 ところで,私たちの太陽(G型星)の寿命は約100億年ほどです.これに対し,太陽より重い星(F型星,A型星など)は短寿命で,その光度も急速に増大するため,ハビタブルゾーンは急速に外側へ移動してしまいます.一方,太陽より質量の軽いK型星やM型星は,寿命が宇宙年齢を超えるため,進化も非常にゆっくりで,ハビタブルゾーンはあまり動きません.ただし,M型星はフレア活動が活発なため,惑星環境に悪影響を与える可能性があります.結果的に,ハビタブル惑星にはK型星が最適であり,最も長寿命でかつ宇宙における数も多いと推定されています(Kasting et al. 1993).

図5:主星質量の違い1

 そこで,主星質量が異なる場合に惑星の気候進化がどうなるのかについて調べてみました(Kadoya and Tajika, 2016).まず,太陽質量の場合について,時間vs軌道長半径のダイヤグラム上に気候モードのマッピングを行ったものが図5です.この図から,ハビタブルゾーン内側領域では,基本的に温暖気候モードのまま進化し,やがて高温気候モードを経て暴走温室モードへ移行することが分かります.このことは,惑星の気候進化が中心星光度進化に支配されていることを意味します.ハビタブルゾーンの内側境界は,時間とともに外側へ移動するため,軌道が内側にあるほど温暖気候モードの寿命が短くなります.地球の場合,温暖気候モードの寿命は約60億年程度です.
これに対し,ハビタブルゾーン外側領域では,最初は温暖気候モードにあるのですが,進化の途中(この計算条件では約30億年程度)で全球凍結モードに移行することが分かります.このことは,ハビタブルゾーンの外側領域では中心星光度の進化よりも惑星内部の熱進化(すなわち二酸化炭素脱ガス率低下)の影響の方が強いことを意味します.大変興味深いことに,ハビタブルゾーン内部の内側領域か外側領域かで,惑星の気候進化パターンが異なることが,初めて明らかになりました.

図6:惑星進化と恒星進化2

 そこで次に,主星の質量を変えた場合の結果を比較したものが図6です.主星光度の違いのために,ハビタブルゾーンの軌道範囲(縦軸の数字)は異なるものの,惑星の気候進化パターンはみなほとんど同じであることが分かります.非常に面白いことに,主星の質量によって進化速度が異なるにもかかわらず,ハビタブルゾーンの外側領域において,温暖気候モードから全球凍結モードへ移行する年齢はほぼ同じ(この計算条件では約30億年)であることが分かります.この理由は,上述のように,ハビタブルゾーンの外側領域においては,中心星光度の進化よりも惑星内部の熱進化が気候状態を支配しており,温暖気候モードの寿命を決めているからです.

 このことは,系外惑星系のハビタブルゾーンにおける地球類似惑星の天文観測において,主星または惑星系の「年齢」が重要な指標となることを示唆します.また,ハビタブルゾーンの内側領域か外側領域かによって惑星の気候進化パターンが異なり,ハビタブル惑星は内側領域の方が長寿命であることが予測されました.ただし,K型星周囲のハビタブル惑星が最も長寿命であるという前述の予想に反し,ハビタブル惑星の寿命の最大値は,主星質量によらずほぼ同じ(この計算条件では約80億年程度)であることが分かりました.ハビタブル惑星の最適条件が惑星進化によって決まっているということがその理由です.

 以上の結果は,「地球」の軌道条件等を変えた場合にその気候状態がどうなるか,というフレームワークの研究によるものです.地球とは異なる特徴を持つ惑星の場合に,こうした条件がどうなるのかについては,今後の大きな課題です.惑星の「多様性」と「進化」という視点からさらに研究を発展させることによって,ハビタブル惑星に関する理解を深めていきたいと考えています.

 

【研究論文】

  • Kadoya, S. and Tajika, E. (2016) Evolutionary tracks of the climate of Earth-like planets around different mass stars, The Astrophysical Journal Letters, 825:L21, doi:10.3847/2041-8205/825/2/L21.[PDF]
  • Kadoya, S. and Tajika, E. (2015) Evolutionary climate tracks of Earth-like planets, The Astrophysical Journal Letters, 815:L7, doi:10.1088/2041-8205/815/1/L7. [PDF]
  • Kadoya, S. and Tajika, E. (2014) Conditions for oceans on Earth-like planets orbiting within habitable zone: Importance of volcanic CO2 degassing, The Astrophysical Journal, 790, 107-113. [PDF]

 

【関連した研究論文】

  • Tajika, E. (2008) Snowball planets as a possible type of water-rich terrestrial planets in the extrasolar planetary system, The Astrophysical Journal, 680, L53-L56. [PDF]