太陽系外におけるスノーボールプラネットの存在予測

 太陽系外惑星とその候補天体は,すでに数千個も発見されています.今後,地球のような「水惑星」も

図1:ハビタブルゾーン

たくさん発見されるはずです.地球の生命は,液体の水が必要不可欠であることを考えると,地表面のH2Oが液体の水(=海)として存在しているかどうかということが,「ハビタブルな」(生命が生存可能な) 惑星かどうかの条件ということになります.また、地球のように,海を持つことが可能な惑星の軌道領域を「ハビタブルゾーン」と呼びます(図1).ハビタブルゾーンより内側では海水がすべて蒸発する「暴走温室状態」,それより外側では海水がすべて凍結する「全球凍結状態」になります.

 地球は太陽系におけるハビタブルゾーンの内部に軌道を持つため,ハビタブルな惑星となったと考えられます.しかしながら,地球は,ハビタブルゾーンに軌道があるにもかかわらず,過去において何度か全球凍結していたことが知られています(研究紹介「スノーボールアース・イベント」参照).また火星軌道もハビタブルゾーンに含まれる可能性がありますが,現在の火星は酷寒の世界です.これはいったいなぜでしょうか?

図2:全球凍結条件

 実は,ハビタブルゾーンのほとんどの領域は,十分な大気の温室効果があれば温暖湿潤気候が実現できる領域なのです.すなわち,ハビタブルゾーンというのは,惑星表面に液体の水(海)が存在できる必要条件であって,十分条件ではないのです.もし大気の温室効果が不十分であれば,水惑星は,たとえハビタブルゾーン内にあったとしても,全球凍結してしまうのです.当然ですが,ハビタブルゾーンの外側に軌道を持つような水惑星は,必ず全球凍結してしまいます.

図3:スノーボールプラネット

 地球の場合,大気の温室効果が十分強いのは,炭素循環システムによって温暖湿潤気候を保つような働きがあるからです(研究紹介「炭素循環と地球環境の進化」参照).しかし,その働きにも限界があり,火山活動が弱くて地球内部からの二酸化炭素の脱ガス率が低くなったり,全球的な火山活動の静穏期が続いたりすると,地球も全球凍結してしまいます(図2;Tajika, 2003, 2007).

 このように考えてみると,宇宙には「全球凍結惑星」(スノーボールプラネット)が多数存在しているのではないか,と予想されます(Tajika, 2008)(図3).

図4:内部海

 全球凍結した地球では,海洋も凍結してしまったと考えられます.しかし,実は凍結したのは海洋表層1000メートル程度で,それより深い領域の海水は,凍結しなかったものと考えられます.これを「内部海」と呼びます.内部海が形成される理由は,地球内部からの熱の流れ(地殻熱流量)があるからです.すなわち,海底からの熱の放出によって海水が温められ,海洋表層1000メートル程度しか凍結することができないのです(図4).

地球内部は地殻熱流量によって時間とともに冷却しますが,地球の熱進化の計算(地球内部の岩石に含まれる放射性元素の壊変による発熱と地殻熱流量による地球表面全体からの熱散逸によって地球がどのように冷却していくかというモデル計算)をしてみると,地球の冷却には数十億年という時間スケールを要することが分かります.

図5:惑星の熱進化と内部海

 そこで,質量だけが異なる地球のような惑星を仮定し,熱進化の計算を行ってみると,地球と同程度の質量を持つ惑星であれば,100 mW/m2程度の地殻熱流量を数十億年スケールで維持できることが分かりました(Tajika, 2008)(図5左).すなわち,水の存在度が地球並であれば,全球凍結しても必ず内部海が形成されるということが分かったのです(Tajika, 2008)(図5右).水の存在度が地球より多くても,もちろん,内部海が形成されます.

 一方,ハビタブルゾーンに軌道があれば,火山活動で二酸化炭素が大気中に蓄積することで,周期的に氷が融けて海が形成されることになります.しかし,基本的な条件を満たしていない場合(火山活動が弱くて二酸化炭素の脱ガス率が低かったり,火山活動が間欠的だったりすると),すぐに寒冷化が生じて,再び全球凍結してしまいます(図6左;Kadoya and Tajika, 2014).ハビタブルゾーンにおけるスノーボールプラネットは,そうした挙動を繰り返すことが予想されます.これを「スノーボールサイクル」と呼びます.

図6:スノーボールサイクル

 地球と類似の惑星も,ハビタブルゾーン内の軌道条件(=日射条件)や二酸化炭素の脱ガス率レベル(=惑星の年齢で決まる内部の熱進化の段階)によっては,「全球凍結気候モード」になってしまいます(研究紹介「太陽系外における地球類似惑星の気候進化」参照).そのような条件に当てはまる地球類似惑星は,スノーボールプラネットとして観測される可能性が高いのではないかと予想されます.実際,スノーボールサイクルにおいては,全球凍結期の方が温暖湿潤期よりも桁で長いため,この条件の地球類似惑星は,確率的・統計的にスノーボールプラネットとして観測される可能性が高いはずです(図6右;Kadoya and Tajika, 2014).

図7:海惑星と全球凍結惑星

 液体の水の存在は生命活動に必要不可欠であることを考えると,こうした全球凍結惑星のハビタビリティは今後の重要な研究対象であると考えます.地表面にH2Oが存在する水惑星は,海に覆われているか全球凍結しているかという二面性を持ちますが,これは水惑星の気候システムが多重平衡解を持つためです.両者では惑星アルベド(太陽放射を惑星全体として反射する割合)が異なるため,同じ日射量に対してどちらも安定な状態なのです.しかしながら,どちらの場合もその表層に液体の水が存在する,ということが重要な性質なのです(図7).

 もちろん,生命の生存には水以外にも重要な要素(栄養,エネルギーなど)があるはずで,真にハビタブルであるためには,そのようないくつかの条件も同時に満たす必要があります.たとえば,地球の場合,海底には熱水系と呼ばれる,高温の海水が噴き出している場所があります.海底熱水には,高温の水と岩石の反応によってさまざまな元素が含まれており,そうした元素を用いた化学反応によるエネルギーを利用した化学合成細菌が活動をしています.また,それを基礎とした生態系の存在も知られています.おそらくスノーボールアース・イベントの際も,海底熱水系における生物は影響を受けなかった可能性があります.したがって,スノーボールプラネットの内部海の底が岩石ならば,地球と同じような海底熱水系における化学合成生物が存在している可能性があります.しかしながら,惑星質量が大きかったり地球より水の存在度がずっと高い場合には,海底に「高圧氷」が形成される可能性があり,水と岩石が反応する海底熱水系は存在しないかも知れません.いろいろな不確定要素があるのです.

 こうした問題を考える上では,太陽系内においてアナロジーとなる天体の研究が重要であると考えます.それは,木星の衛星であるエウロパやガニメデ,カリスト,土星の衛星であるタイタンやエンケラドスなどの氷衛星です.これらの衛星には,理論や観測などから内部海が存在する可能性が指摘されています.エンケラドスは内部海の物質が吹き出していることが知られており,惑星探査機カッシーニがそのサンプルを捕集して,分析もしています.こうした天体の内部海の条件を詳しく検討することによって,スノーボールプラネットという天体やそのハビタビリティについての理解が進むのではないかと考えています.

 

【研究論文】

  • Tajika, E. (2008) Snowball planets as a possible type of water-rich terrestrial planets in the extrasolar planetary system, The Astrophysical Journal, 680, L53-L56. [PDF]
  • Kadoya, S. and Tajika, E. (2014) Conditions for oceans on Earth-like planets orbiting within habitable zone: Importance of volcanic CO2 degassing, The Astrophysical Journal, 790, 107-113. [PDF]

 

【関連した研究論文】

  • Kadoya, S. and Tajika, E. (2016) Evolutionary tracks of the climate of Earth-like planets around different mass stars, The Astrophysical Journal Letters, 825:L21, doi:10.3847/2041-8205/825/2/L21.[PDF]
  • Kadoya, S. and Tajika, E. (2015) Evolutionary climate tracks of Earth-like planets, The Astrophysical Journal Letters, 815:L7, doi:10.1088/2041-8205/815/1/L7. [PDF]
  • Tajika, E. (2007) Long-term stability of climate and global glaciations throughout the evolution of the Earth, Earth, Planets, and Space, 59, 293-299. [PDF]
  • Tajika, E. (2003) Faint young Sun and the carbon cycle: Implication for the Proterozoic global glaciations, Earth and Planetary Science Letters, 214(3-4), 443-453. [PDF]