Plant Nutrition and Fertilizers

研究に対する考え方

このような経験に基づいているのだと思いますが、私の研究や教育に対する考え方は以下のようにまとめられると思います。

1)主体的に研究しよう。

研究の醍醐味や面白さは、自分自身の考えで研究を進めて成功することにあるのだと思います。研究はみなさん一人一人が主役です。是非頑張ってほしいし、私はできる限り応援したいと思っています。

とは言っても、研究をはじめてばかりの頃は、何をしていいのか戸惑うばかりだと思います。最初はテーマを設定してもらい、実験の「見習い」も必要です。様々な実験手法を習い、考え方を身に付け、論文が自分でかけるようになってはじめて自分の考えを持てるようになるのも事実です。これには、人にもよりますが、何年もかかるかもしれません。この最初の段階では、手取り足取りの指導が受けられるようにしたいと思っています。

しかしそれでも、将来は自分で研究するのだという気概を持って自ら考えて進んでいくことを大切にしてほしいと思っています。指導教員の指示に従って行うだけの実験は研究というより研究補助です。(いうまでもなく、研究補助という役割は研究を進める上で重要な役割ですが、大学院を目指すなら自分で考えて進んでほしいです。)

たとえ、卒論の学生さんでもすばらしい発見をすればその人の発見として認められるのです。研究者としての自覚と責任をもって研究に取り組んで欲しいと思いますし、そのような考えをできる限り尊重して進めていきたいと考えています。

みなさんの中には私と研究に対する考え方が違うという方もおられるでしょう。研究に対する考え方は私の考え方と同じである必要は全くありません。それぞれの興味、方向性を重視して進めていきたいと思っています。

2)実験結果に向き合おう。

みなさんはこれまで、「教科書」を主に使って勉強してきたでしょう。様々な書物を読んだかもしれません。こういった知識を身に付けると「常識」が身に付きます。その一方で、「常識」が身に付くと、知らず知らずのうちに、自分の考えを制限することにもなってしまいます。本当は何がどこまで分かっているのか、がわからないうちに納得してしまうようにもなります。例えば、農薬とか化学肥料というものは今は一般に悪者にされているようですが、実際に作物を育て、使ってみると、農薬とか化学肥料の有効性がわかりますし、安全性が配慮されていることがわかります。また、農薬とか化学肥料なしに、今の生活を維持することはできません。

みなさんはそこまでのことは無いかもしれませんが、知らず知らずのうちに「常識」を身に付けているかもしれません。「常識」に頼り過ぎると、折角出した実験の結果が予想に反しているがゆえに信じられないとか、失敗したと判断してしまうということにもなってしまうかもしれません。私たちの行う実験科学は、実験結果を重視することに基本があります。おや?と思うような実験結果の多くは、実験操作の間違いだったりするのかもしれませんが、一見非常識と思える考えの中に新たな発見の芽があるのかもしれません。何が本当にわかっていて、何が分かっていないのかを理解するとともに、真剣に実験をして、出てきた結果にまっすぐ向き合うことによって、新しい発見をして欲しいと思っています。こういった態度を身に付けることは、研究だけでなく、生活の中でおこる様々な事柄を自分なりに考え判断するために重要です。

3)まわりの人を尊重しよう。

研究はそれぞれが責任をもって行うものですが、決して一人でできるものではありません。過去の研究の蓄積が無ければ現在の研究はできません。研究室内外の人の協力無くしては研究を進めることもできません。研究室の実験は税金によって支えられています。無駄使いは許されません。

決して独りよがりな考え方や態度を取らず、広く研究を支えている多くの他人の立場を尊重し、感謝しつつ研究に取り組んでほしいと思います。これは研究だけでなく、社会で生活していく上で必要なことだと思っています。

私の研究グループでは、いわゆる「雑用」を強制することはしません。しかし、いわゆる「雑用」無くしては研究は成り立たない面もあります。自分の研究を支える様々な事柄や他の人の努力を考え、思いやりを持って行動することは、どの研究室に行っても、どの分野で仕事をするにしても役立つものだと思います。

4)広く深く興味を持とう。

研究はどんどん発展していきます。私が大学院生の頃、苦労をして身に付けた実験技術の多くは今はもう使われませんし、当時主流だった実験手法や考え方はもう過去のものとなっています。皆さんはもうしばらくすれば、実際の研究を担う主役になります。そうなった時に、役立つのは、広く深い知識だと思います。研究室には、外国人を含めて様々なバックグラウンドの人がいます。研究を通じて、研究室内外の様々な人と積極的に話をして、広い分野の知識を得ることや、そういった分野に自ら飛び込んでみること、将来大切になるであろう新たな可能性を考えることが、皆さんの将来に必ず役立つと思います。

最後に

研究は楽しいです。しかし、研究は努力すれば必ず成果が得られる、というものでは無いかもしれません。やっていないと分からないし、やってみる以上は、真剣に没頭して初めて楽しさに到達できるものなのかもしれません。学部学生、大学院生、博士研究員それぞれの段階で、みなさんはある種のプレッシャーと戦いながら研究をすることにもなります。毎日毎日が楽しいことだけでは済まない面もあると思います。その様な中でも可能な限りの努力を欠かさず継続する中で成果が見えてくるかもしれません。私の大学院生時代を思い返しても、楽しいことも多かったですが、がっかりしたり、不安だったり、苦しかったことも少なからずありました。

私にできることは限られているかもしれません。しかし、皆さんが私のグループに来られたら、できるだけのサポートをしていきたいと思っています。