脂質ケミカルバイオロジー・創薬

脂質・脂肪酸は多様な生命機能を担う重要な第4の生体分子ですが、化学合成が難しく研究が限られてきました。私たちは、コンビナトリアルケミストリーと自動合成技術により、多様な脂質分子を効率的に創出するプラットフォームを開発しています。得られた世界でここにしかないないライブラリーを用いて、脂質が制御する生命機能や疾患機構を解明し、革新的脂質モダリティ創薬へと展開します。

多価不飽和脂肪酸の完全固相合成

多価不飽和脂肪酸(Polyunsaturated Fatty Acids: PUFA)は、不飽和結合をもつ長鎖脂肪酸であり、重要な脂質分子群です。生体には1万種を超える脂質・脂肪酸が存在するとされますが、その多くの機能は未解明です。また、PUFAは炎症性疾患、代謝疾患、神経変性疾患、がんなどの予防や治療に有用と期待されており、構造と機能の理解に基づく新たな機能性PUFAの開発が望まれていますが、その分子設計は未踏の領域です。これは、核酸やペプチドとは異なり、脂肪酸・脂質の合成技術が十分に確立されておらず、入手が困難であったことが大きな要因です。

私たちは近年、世界に先駆けてPUFAの完全固相合成法を確立しました。この技術により独自のPUFAライブラリを構築し、PUFAの関わる生命現象の解明や新たな機能性PUFAの創出に挑戦しています。また現在、cis型だけでなく、transや共役オレフィンなどユニークな構造をもつPUFA合成法の確立、さらには自動合成技術の実現にも挑戦しています。

[参考文献]
Nat. Chem. 2025, DOI: 10.1038/s41557-025-01853-5.



脂質・脂肪酸のバイオロジー

多価不飽和脂肪酸(PUFA)の固相合成法を基盤として、世界でここにしかないPUFAライブラリの構築を実現しています。近年、このPUFAライブラリを活用し、抗炎症作用をもつ天然脂肪酸代謝物17,18-EpETEよりも高い抗炎症作用を示す人工脂肪酸「antiefin」を発見しました。

現在、この独自の脂肪酸・脂質ライブラリを用いた細胞アッセイを進め、炎症・増殖・老化や細胞機能/運命制御等に関与する脂質・脂肪酸の機能の解明と、機能性脂質・脂肪酸の創出に向けた研究を展開しています。

[参考文献]
Nat. Chem. 2025, DOI: 10.1038/s41557-025-01853-5.