脂肪酸・脂質のケミカルバイオロジー

 脂質は、タンパク質や核酸、糖と並び、生命を支える重要な生体分子群です。例えば、脂質の重要な生命機能として、細胞膜などの生体膜を構成する、エネルギー産生と貯蔵を担う、シグナル分子として情報伝達を担うなどの役割があります。一言で脂質といっても、遊離脂肪酸やリン脂質、アシルグリセロールなど様々な脂質分子種が存在し、それぞれ性質や機能が異なります。
 近年の分析・解析技術の発展に伴い、生体内には莫大な種類の脂質分子が存在することが明らかになり、脂質多様性のもつ生命機能的意義が注目されています。今後の脂質科学においては「脂質多様性と生命機能の関連」がキーワードとなると考えられます。



 「脂質多様性と生命機能の関連」を明らかにしていくためには、様々な脂質分子の性質や機能を調べる必要があります。このような場合、化学合成が強力な武器になります。化学合成によって脂質分子を自在につくることができれば、生体内にはごく微量にしか存在しないために解析が難しい脂質分子や今まで発見されていない未知の脂質分子なども含めて解析することが可能です。しかし、脂質の化学合成は、一般的に手間や時間がかかり、数万種類もの脂質を従来の方法で化学合成することは現実的には不可能です。これは、ペプチドや核酸とは大きく状況が異なります。ペプチドや核酸は、簡便かつ効率的な化学合成手法が確立しており、自動合成が普及し、ペプチド創薬や核酸創薬が隆盛を極めています。



 私たちは、タンパク質・ペプチドや核酸分野で発展してきたコンビナトリアルケミストリーの知識と最新の有機合成化学を駆使することで、脂質分子の多様合成手法の確立を目指しています。莫大な数の脂質分子を自在かつ簡便に化学合成できるようになれば、脂質科学の発展に貢献できると期待しています。 これまでに開発した独自合成法を用いて、多種多様な脂肪酸を合成することが可能になりました。この手法を用いて構築した脂肪酸ライブラリーを活用し、学内外の脂質科学者と共同研究を進め、脂肪酸と生命現象の関わりを明らかにしようと取り組んでいます。