以前の研究から
機械学習の非平衡開放系や実験系への応用
背景:温度が異なる二つの熱浴と接した非平衡開放系では、非ゼロな熱流が定常状態で存在します。特にナノ熱電材料はこの定常熱流を電気的仕事に変換する熱機関とみなせます。電子間相互作用を考えない場合は、最適な熱電材料の条件がLandauer理論などにより見出されていた一方、相互作用がある場合は探索空間の膨大さ故にその熱力学的な限界に対して明確な答えは得られておりませんでした。
研究:我々は、差分進化と呼ばれる大域的探索アルゴリズムを応用し、相互作用により量子ドットなどナノ熱電材料の性能指数と出力因子が数桁改善する可能性を指摘しました。これと共に他のナノ熱機関にも適用可能な汎用性の高い強化学習の枠組みを構築しました。また強化学習の代表的課題である倒立振子(CartPole)を、観測下の開放量子系に拡張し最先端の深層強化学習のための新たな挑戦的ベンチマーク課題として提案しました。さらにガウス過程回帰による量子センサの性能向上を実現しました。
[差分進化, ガウス過程回帰] Commun. Phys. 2021, Sci. Rep. 2022
[深層強化学習] PRL 2020, PRApp 2022
回折限界を超えた位置測定:量子気体から生体分子まで
背景:物理法則で決まる原理的限界により光の波長よりも小さい対象物は見えないと考えられてきました。この位置分解能の限界ー回折限界ーはおよそ光が関係するあらゆる分野における長年の課題でありました。特に、近年冷却原子系で実現した量子気体顕微鏡においては回折限界が要求する高い信号雑音比のために測定が破壊的になってしまうという制約がありました。また、2014年のノーベル化学賞の対象にもなった生命科学における超解像度蛍光顕微鏡においては膨大な撮像回数が必要となってしまうために時間分解能が大きな制約でした。
研究:我々は、回折限界を超えた分解能で原子や分子の位置を測定するための理論的枠組みと計算手法を確立しました。特に、光格子系において量子測定理論を用いて多体波動関数の収縮を追跡することで、原子位置が高フィデリティーで決定できることを示しました。これにより少数光子・非共鳴散乱光を用いた非破壊なシングルサイト測定が行える可能性を指摘しました。さらに、理論を古典系にも拡張し超解像蛍光顕微鏡に応用することで、時間分解能の理論限界を達成できる解析手法を構築する事に成功しました。
[光格子系の超解像非破壊測定] PRL 2015
[連続空間上の超解像測定手法] Opt. Lett. 2016