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2013年6月24日

追悼

「たまきはる いのちのかぎり きわめませ いやはてしらぬ むらさきのみち」

の 国中 明 先生

 

国中明先生におかれましては、本年4月2日にご逝去されました。

謹んでお悔やみ申し上げます。

 

国中先生は、1951年 東京大学農芸化学科をご卒業、大学院に進まれ、在学のまま1953年 ヤマサ醤油に入社されました。坂口謹一郎先生のご指導のもとで核酸分解酵素の研究を行い、鰹節のうま味成分が 5'- イノシン酸であることを発見されました (1955年)(注1)。また、 5'- グアニル酸が椎茸のうま味成分であることを発見・呈味ヌクレオチドと昆布のうま味成分であるグルタミン酸ナトリウムとの相乗効果を発見されました (1960年)。和食のだしの基本素材である鰹節、椎茸と昆布の共存がうま味を倍加させるメカニズムを科学的に解明された功績は農芸化学の分野において特筆される業績です。

 

農芸化学会や醸造学会での懇親会等でのご挨拶で、恩師 坂口謹一郎先生(注2)から贈られた歌

「たまきはる いのちのかぎり きわめませ いやはてしらぬ むらさきのみち」 

(たまきはる は いのちの枕詞、むらさきは醤油のこと)

を朗詠される先生の姿を思い起こす人も多いことと思います。

 

また、2010年の微生物学研究室の春の旅行では、銚子のヤマサ醤油を訪問し、国中先生にお願いして、上記の偉大な発見の話を生で聞かせていただきました。当日、早起きをして(徹夜して?)見た太平洋から昇る神々しい日の出と、先生の研究についてのお元気な話しぶりは忘れることのできない思い出となりました。

 

なお、醸造協会雑誌6月号 (108、449(2013)) に先生のサイン入りのお別れの言葉が掲載されています。

 

(注1)鰹節のうま味成分がイノシン酸であることは小玉新太郎博士により1913年に報告されていたが、イノシン酸のうち、うま味を呈するのは 5'- イノシン酸であり、2'- イノシン酸と 3'- イノシン酸はうま味を呈さないことを発見した。国中先生は、1957年に酵母のリボ核酸 (RNA) を分解して 5'- イノシン酸を作る微生物酵素を発見し、実用化への道をひらいた。

 

(注2)坂口謹一郎先生は微生物学研究室の本家である醗酵学研究室を主宰され、醗酵学分野での数々の業績はもちろんのこと、「お酒の神様」とも呼ばれ、また、昭和51年1月に、新春歌会始の召人を務められたことからもわかるように歌人としても有名です。

 

うたかたの消えては浮ぶフラスコは ほのぬくもりて命こもれり

めにみえぬちひさきもののちからもて これのうまさけかますかみわざ

うま酒の究めの道ゆ生(あ)れいでし ミクロの学はいや栄えなむ

坂口謹一郎(1897~1994) 歌集『愛酒樂酔』より

 

(鑑賞 坂口先生の願いの奥底には、麹その他の微生物たちの働きに対する驚嘆の心がありました。

微少な麹の大きな仕事ぶりを目の当たりにした者はこの国のうま酒を寿 (ことほ) ぐしかないではないか。)