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 Vol.38 2010年 8月号 化学・生命系3学科特集

Vol.38 8月号
次世代社会の基幹デバイス:リチウムイオン電池

 今回は化学系学科の特集です。一人目のインタビューは、リチウムイオン電池について研究されている化学システム工学専攻の山田淳夫教授です。
 私たちが日ごろ何気なく使っている携帯電話やノートパソコンなどは、電源としてリチウムイオン電池が使われています。このリチウムイオン電池、電気自動車用の電池として実用化も徐々にされてきています。



Q.研究内容について教えて下さい。

 エネルギー変換機能・エネルギー貯蔵機能を有する新材料の開発やその仕組みの解明について、無機固体材料を中心に幅広く研究しています。研究テーマの一つが、次世代自動車用のリチウムイオン電池の開発です。三菱自動車工業とは「社会連携講座」を設置し、化学システム工学科の材料関連の研究室全体で共同研究をしています。



Q.リチウムイオン電池とはどのようなものなのでしょうか?

共同研究を行う三菱自動車
工業㈱のi-MiEV とともに。
i-MiEV はリチウムイオン電池を
用いた世界初の量産車
(2010年4月に発売)

 電池と一口に言っても、一次電池、二次電池、燃料電池の3 種類に大きく分類されます。一次電池は、使い捨ての乾電池など。二次電池は何度でも充電して繰り返し利用できるもの。燃料電池は外部から反応物質を供給してエネルギーを得るものです。
 リチウムイオン電池は、二次電池に属します。時計などの低出力な機器ならば一次電池で十分ですが、パワーが必要で一回の使用時間が比較的短い機器に対しては何度でも充電できる二次電池が有効です。

Q.リチウムイオン電池とリチウム電池は違うものなのでしょうか?

 単にリチウム電池というと、二酸化マンガンリチウム(Li-MnO2)電池などの一次電池のことを指す場合があります。これらは負極に金属リチウムを用いていますが、二次電池のように安全に繰り返し充放電することはできません。ここでいうリチウムイオン電池は、リチウムが常にイオン状態で電気を運ぶ働きをしているものです。

Q.リチウムイオン電池が、他の二次電池と違う点は何ですか?

 この電池は、1990年にソニーが特殊な炭素材料の中にリチウムをイオンのまま入れ込む技術を採用することで商品化されました。

 近年のリチウムイオン電池の急速な発展には目を見張るものがあり、以前から実用化されている二次電池の鉛蓄電池、ニッカド電池、ニッケル水素電
池に比べてはるかに高いエネルギー密度を実現可能です(図)。リチウムイオン電池の利点は、エネルギー密度が高いこと以外に、軽いこと、出力電圧が高いことなどが挙げられます(リチウムは金属のうち最大のイオン化傾向を持ち、非常に低い電位を持つため、これを負極として用いると、正極との電位差が開き、高い電圧が得られる)。
さまざまな二次電池のエネルギー密度

 しかし、欠点も多くありました。まず、有機電解液を用いているので燃えやすいこと。ケータイの電池パックが発火したという事故を聞くことがあると思いますが、これはリチウムイオン電池内の有機電解液と正極材料が激しく反応することで起こる現象です。リチウムイオン電池を自動車用に実用化するとなるとサイズが桁違いに大きくなるため、絶対に避けなければいけません。また、コバルトなどの希少金属(レアメタル)を用いているために値段が高いことも欠点の一つでした。


 これらの理由から、自動車へのリチウムイオン電池の応用は成功しませんでした。例えば、2009年以前までに実用化されたハイブリッドカーの「プリウス」(トヨタ) や「インサイト」( ホンダ)にはニッケル水素電池が使われています。その後数々の研究により、リチウムイオン電池の安全性は確立されていき、2010年に発売されたi-MiEV(トップ写真)に、ようやくリチウムイオン電池が採用されたのです。ただし、このi-MiEV に搭載されたリチウムイオン電池にはコバルトやニッケルほどではないにしても希少な金属であるマンガンが使われていますから、i-MiEV はまだまだ高価です。

Q.より安価な材料でリチウムイオン電池が作れれば、実用化に向けて飛躍的に前進するのですね。


 はい。私の研究成果のひとつは、90年代後半に可能性が示された新しい材料である、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)に着目し、その高い実用性を初めて示したのです。
 当時は電池への応用はほとんど考えられていませんでしたが、この成果によりオリビン型リン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン電池の可能性は広く世界に認知されるようになりました。この材料は安価な鉄を基本元素とし、しかも非常に高い安全性を有しているというという特徴があります。

オリビン型リン酸鉄リチウム
(LiFePO4)イオン電池の概念図
 オリビン型リン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン電池は電動工具や、北京オリンピックの電気自動車、さらにはF1レースの加速システム等に次々と採用され、内燃機関を凌駕する出力特性が実証されています。
 このように、リチウムイオン電池は優れた動力技術となってきています。しかし、化石燃料技術と比べるとまだまだ持久力がないのが現状です。たとえば、ガソリン車はガソリンを満タンにしてから500キロメートルまで走れるのに対し、リチウムイオン電池を使った電気自動車は充電してから180キロメートルしか走れません。さらに次の段階の研究が必要になります。

)。
コバルトを1 とした時の、各材料のクラーク数(地表付近の存在量指数)と有害性の値をグラフにしたもの。鉄はマンガン、ニッケル、コバルトに比べ格段に多く存在し、有害性も少ない

Q.今後の展望をお聞かせください。

 応用と基礎の視点のバランス感覚を重視し、これからも科学と技術の本当の境界分野に身をおいて研究をしてきたいですね。流行に流されず、自己満足に陥らずといったところでしょうか。

Q.読者へのメッセージをお願いします。

 研究をやっていくときに、重要になってくるのが人とのネットワークです。現在進行中の研究や、本当の最先端の情報は、論文にも、本にも、ネットにも載っていません。人とのコミュニケーションからこそ、着想が得られるのだと考えてください。
 また、そういったコミュニケーションの中から有意義な情報を得るためには、自分自身の強みを確立していることや、相手を尊重できる姿勢を持つことが大前提になります。

(インタビュアー 清水 裕介)

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