内田研究室

東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系

Size-Controlled Synthesis of Luminescent Few-Atom Silver Clusters via Electron Transfer in Isostructural Redox-Active Porous Ionic Crystals

レドックス型多孔性イオン結晶中の電子移動を介した発光性小核銀クラスターのサイズ制御

N. Haraguchi, N. Ogiwara, Y. Kumabe, S. Kikkawa, S. Yamazoe, T. Tachikawa*, S. Uchida*, Small, 2300743 (2023).

DOI: 10.1002/smll.202300743

Figure 1

10 個以下のごく僅かな数の銀原子の集合体である小核銀クラスターは、無数の銀原子の集合体である金属状銀とは異なり、サイズ(構成する原子の数)に強く依存した触媒活性・発光特性・電子的特性・磁気的特性を示すことから大きな関心を集めている。しかしながら小核銀クラスターは互いに凝集しサイズ成長しようとする傾向が強いため、保護配位子をもたずかつ空気中で安定な小核銀クラスターのサイズ制御された合成法は確立されていない。

本研究では、レドックス活性な Dawson 型ポリオキソメタレート(POM) [aPM18O62]6[a-PM_{18}O_{62}]^{6-} を構成ブロックとして用いた互いに等構造な 3 つの多孔性イオン結晶 A3[Cr3O(OOCH)6(etpy)3]3[aP2M18O62f]A_{3}[Cr_{3}O(OOCH)_{6}(etpy)_{3}]_{3}[a-P_{2}M_{18}O_{62}f] (etpy = 4-ethylpyridne, A = K or NH4NH_{4}, M = Mo or W, 以下この結晶を AIMA-I_{M} とする) を使用して小核銀クラスターを合成した。 AIMA-I_{M} を還元剤により還元させたのち、硝酸銀水溶液に浸漬すると結晶の細孔内部へ Ag+Ag^{+} が導入された。このとき、結晶を構成する POM から電子を受けとる( Ag++eAg0Ag^{+} + e^{–} → Ag^{0} )ことで生成された Ag0Ag^{0} が、結晶内部で Ag+Ag^{+} と自己集合する( nAg++mAg0[Ag(n+m)]n+nAg^{+} + mAg^{0} → [Ag_{(n+m)}]^{n+} )ことで小核銀クラスターが形成された。各種測定の結果から、得られたクラスターのサイズは POM から Ag+Ag^{+} への移動電子数と正の相関をもつことが示され、結晶の細孔内部で形成される小核銀クラスターのサイズが移動電子数という単一のパラメーターによって制御可能であることが本研究によって明らかにされた。

Vanadium-Substituted Polycationic Al-Oxo Cluster in a Porous Ionic Crystal Exhibiting Lewis Acidity

ルイス酸性を示すV置換Al酸化物カチオン性多核クラスターを有する多孔性イオン結晶

W. Zhou, N. Ogiwara*, Z. Weng, C. Zhao, L. Yan, Y. Kikukawa, S. Uchida*, Chem. Commun., 58, 12548–12551 (2022).

DOI: 10.1039/D2CC03545F

Figure 1

水溶液中でのAl塩の加水分解・脱水縮合により、様々な組成・サイズ・形状を有するAl酸化物多核クラスターが形成されることが知られている。これらAl酸化物クラスターは水処理・色素除去・触媒等の分野で幅広く用いられている。代表的なAlクラスターの一例としてはKeggin型Al13クラスター( [Al13O4(OH)24(H2O)12]7+[Al_{13}O_{4}(OH)_{24}(H_{2}O)_{12}]^{7+} )が挙げられる。Keggin型 Al13Al_{13} クラスターは、中心に存在する [AlO4][AlO_{4}] 四面体に対して四つの Al3(OH)6(H2O)3Al_{3}(OH)_{6}(H_{2}O)_{3} 三量体が連結された構造を有しており、5種類の回転異性体(α, β, γ, δ,および ε、三量体ユニットの回転に起因)が存在しうる。その中で εAl13ε-Al_{13} 異性体は熱力学的に安定であるのに対して、 δAl13δ-Al_{13} 異性体は相対的に不安定で高い反応性を有するため注目を集めている。最近では、 δAl13δ-Al_{13} 異性体に対する金属置換が、多彩な構造体の探索において有望な手法として提案されている。
本研究ではV置換されたAl酸化物クラスターである [V4Al28O20(OH)52(H2O)22]12+(Al28V4)[V_{4}Al_{28}O_{20}(OH)_{52}(H_{2}O)_{22}]^{12+} (Al_{28}V_{4}) カチオンを合成した。 Al28V4δAl12VAl_{28}V_{4}はδ-Al_{12}V ユニットおよび露出した [AlO4][AlO_{4}] 四面体を持つという特徴がある。さらに Al28V4Al_{28}V_{4} カチオンを、対アニオンとなるKeggin型ポリオキソメタレート(POM)である [PW9V3O40]6(PW9V3)[PW_{9}V_{3}O_{40}]^{6–}(PW_{9}V_{3}) とともに結晶化することにより、多孔体イオン結晶 [V4Al28O20(OH)48(H2O)24][PW9V3O40]2(Al28V4PW9V3)[V_{4}Al_{28}O_{20}(OH)_{48}(H_{2}O)_{24}][PW_{9}V_{3}O_{40}]_{2}(Al_{28}V_{4}-PW_{9}V_{3}) を合成した(図1)。DFT計算および固体NMR測定の結果から Al28V4PW9V3Al_{28}V_{4}-PW_{9}V_{3} の構造において露出した [AlO4][AlO_{4}] サイトは電子不足な状態であり、ルイス酸点として作用すると示唆された。そこで、ルイス酸触媒反応の一種であるベンズアルデヒドのアセタール反応に対して Al28V4PW9V3Al_{28}V_{4}-PW_{9}V_{3} を適用したところ、収率は53%(343 K,2時間)であり、 Al13Al_{13} クラスターを有する多孔性イオン結晶 [δAl13O4(OH)24(H2O)12][PW9V3O40](OH)[δ-Al_{13}O_{4}(OH)_{24}(H_{2}O)_{12}][PW_{9}V_{3}O_{40}](OH) (収率:40%)と比較し、高い触媒機能を有することがわかった。