Research

食糧化学研究室では、“食と健康”をキーワードに、人類が避けては通ることのできない生命現象である「健康の衰え」と、それを防ぐ「食の機能性」に関する研究を行っています。「健康の衰え」に関しては、その因果関係が明らかにされつつある体の中の“さび”ともいえる修飾(異常)タンパク質に関する研究を行っています。一方、「食の機能性」に関しては、抗酸化剤の新しい機能性の他、食品成分の腸管機能への作用などの研究を進めています。

食糧化学研究室では、医学などの異分野との境界領域にある健康科学に貢献できる道が拓かれています。その魅力を伝え、この分野の発展、新しい学術研究領域開拓の一翼を担いたいと願っています。

研究テーマ

  1. 健康に関連した異常タンパク質(“さび”)の生成と病気との関連性
  2. 抗酸化性食品成分の新しい機能性開拓
  3. 食品成分による免疫・炎症反応の調節
  4. 腸管機能を調節する新しい機能性成分の探索

1. 健康に関連した異常タンパク質(“さび”)の生成と病気との関連性

糖質や脂質を起源とする活性種によるタンパク質修飾の化学的解析、および修飾タンパク質の生成・蓄積と病態との関連性について、免疫化学的研究を進めてきており、これまでに一連のアルデヒド修飾タンパク質に対するモノクローナル抗体を開発してきました。その成果として、これまでにアルデヒド修飾タンパク質をターゲットにしたモノクローナル抗体を作成することで、修飾分子特異的抗体のライブラリーを完成させ、基礎・臨床研究への応用を可能にしました。また、毒性の強いアクロレインに関しては、イムノアッセイ法を基盤にしたキットの開発・市販化により、発がん性リスク評価や脳梗塞リスク評価などの開発につながり、科学技術イノベーションへの大きな貢献となったのです。さらに、こうした抗体技術を用いたバイオマーカー開発研究の過程において、一部のアルデヒド修飾タンパク質に対する抗体が、核酸を認識し得る異常な特異性を示す抗体であることを発見しました。この発見をきっかけに、新しい自己免疫疾患診断法の基盤の構築を目指すとともに、抗体の多重交差性など、自己抗体の示す特異性に関する新しい知見を得ています。こうした一連のアルデヒドを基軸にした免疫化学的評価研究は、世界的にもユニークなものであり、これらの研究を基盤に、発展的応用技術が達成され、生活習慣病の予防・改善へとつながることが期待されます。

2. 抗酸化性食品成分の新しい機能性開拓

人類の祖先であるネアンデルタール人はすでに植物を食べていたといわれています。植物は、ビタミンやミネラルなどの供給源であることはいうまでもなく、老化や疾病に対する予防効果のある様々な生体調節機能成分を含むなど、機能性食品成分の宝庫です。一方、これらの食品成分は、代謝などを介して様々な中間体を生成します。また、その多くは極めて不安定であるため、その化学構造を含めて実態が不明なものが多いのです。こうした“短寿命分子種”の生成は、それ自体が機能性の起源である可能性があり、細胞機能の制御だけでなく、病気の発症や進展の制御など、私たちの健康とも密接に関連していることが予想されます。特に、こうした不安定中間体によるタンパク質の修飾は、他の翻訳後修飾のようなタンパク質の活性制御を伴うほか、最近では内因性代謝物に起因した修飾タンパク質が自然抗体のリガンドとして作用することが明らかになってきました。このように、タンパク質修飾による機能制御は、食を起源とする新たな短寿命活性種の登場により、新しい次元へと研究展開されようとしています。

3. 食品成分による免疫・炎症反応の調節

花粉症やぜんそく、食物アレルギーなどのアレルギー疾患に悩む人の数は、近年全世界的に増加し続けており、我が国では国民の約半数がなんらかのアレルギーをかかえる状況となっています。また一方、軽度の炎症が持続的に進行する反応である慢性炎症が、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、がん、認知症など、加齢に伴い増加する疾患の発症基盤となっていることが明らかとなってきました。アレルギーや炎症反応はともに免疫系の反応によるものです。したがって、免疫機能を調節する食品成分は、アレルギーや生活習慣病など様々な疾患の発症予防に役立つことが期待され、QOLの向上、医療費増大の抑制などに大きく貢献するものと期待されています。私たちは、免疫・炎症反応の抑制を担うリンパ球である制御性T細胞や制御性B細胞を分化誘導したり活性化する機能をもつ食品成分について研究をおこなっています。動物実験レベルではありますが、これまでに柑橘類に含まれるフラボノイドやプロバイオティクス(乳酸菌など)に制御性T細胞を誘導する機能があることを明らかにしています。また、抑制性サイトカインであるインターロイキン10を産生する制御性B細胞を誘導・活性化するフラボノイドも見出しており、これらの作用機構の解明を目指して研究を進めています。

4. 腸管機能を調節する新しい機能性成分の探索と分子機構の解明

食品成分の消化・吸収・代謝を担う腸管は、体内で最も多くの免疫細胞をかかえる最大の免疫臓器でもあります。また、腸管には私たち自身がもつ細胞の数を大きく超える腸内細菌が共生しており、私たちの健康に様々な影響を与えていることが明らかにされてきています。腸管免疫系には、摂取した食物や腸内共生菌に対しては過剰な免疫応答がおこらないような仕組み(経口免疫寛容)があり、プロバイオティクス(乳酸菌)にはその働きを強化する作用があることを私たちは見出しています。また、腸管粘膜からの外敵の侵入を防ぐ免疫グロブリンA(IgA)の産生を増強する働きをもつ食品成分、腸管での炎症を抑制する働きをもつ食品成分の研究も進めています。一方、試験管内での初代培養が困難な腸管上皮細胞の培養株を樹立したり、幹細胞から作製するオルガノイド(臓器と似た立体構造体)を利用して、腸管機能を調節する新たな食品成分の探索やその分子機構の解明を目指した研究を行っています。