東大英単これは受験参考書ではありません 効果的な英語学習をサポートする新しいタイプの語彙テキストをお届けします。本書は東京大学教養学部に入学した学生の実力や必要性にもとづいて独自に開発された学内用教科書を母体とし、それをさらに広い読者に向けて発展させたものです。「語彙力強化を通じて総合的な英語力を豊かにすること」を最大の目的としています。テキストの内容を説明する前に、編集の趣旨や制作の背景について簡単に紹介しておきましょう。 * 語彙力とは何か英文法や構文の知識、文章の発想や背景についての理解、作文や会話・プレゼンテーションといった場面での発信能力など、さまざまな知識とスキルが必要なことは言うまでもありません。語彙はこれらすべてを支える基礎的な部分です。英語で何かを表現するときに、「こういう場合はどんな言葉を使ったらよいのか」「もう少しボキャブラリーがあったら」と感じた経験は誰にもあることでしょう。 暗記型学習から発信型へしかし、語彙力を伸ばすといっても、どのような方法がよいのでしょうか。一日に一定数の単語の意味やスペリングを覚えるといった機械的なやり方は効果がありません。暗記をしても、英語を使う現実の場面ではほとんど役に立たないからです。本書では「語彙をバラバラな言葉の羅列ではなく、いかに体系的に捉えて実際の使い方を体得するか」ということに重点を置いています。ですから、語彙の数そのものを増やすことが目標ではありません。このテキストに登場する280 の見出し語の多くは、読者の方々が高校までの学習ですでに知っているものです。 語彙を文脈で捉える本書の関心は、「ある単語が使われる最も典型的で自然なコンテクストは何か」ということにあります。つまり、文法的に正しい文章でも、語彙の選択として実際はあまり使われない語を日本人学習者が用いる場合が多いことを考えて、語の文脈に重点を置きました。「こういう場合にはこの言葉がふさわしい」ということが理解できるようになれば、そのあとはより豊富な語彙を正しく使い分ける力も徐々に、また着実についてくるはずです。 語彙のレベルと種類ここで取りあげた語彙や例文はいずれも学術的な論文や報告に頻繁に登場するもので、大学生として知っておくべき、また正しい使い方が望まれるものばかりです。見出し語は、既製の語彙テキストやリストに準拠せず、東京大学教養学部1 年生が必修統一授業の英語 I で夏学期に使用する教科書On Campus の全14 章で使われている語彙から厳選したものです。文理横断的な内容を広くカバーしたテキストを語彙のソースとして使うことで、多様な専門分野にわたる基本語彙の多くを扱っています。 見出し語の配列見出し語は、たとえば On Campus の第1 章の重要語彙のうち20 語が、a からz にわたり本書の第1章の項目に取りあげられるという形で、章ごとに対応しています。さらに、On Campus や1 年生が冬学期に使用する Campus Wide で使われている文章も参照できるよう、引用ページを付記しています。本書を学習しながら、あわせて英語 I テキストを参照してみることをお勧めしますが、もちろん、本書はこれのみ独立して使えるように編集してあります。 * 制作の背景2006 年度にスタートした東京大学教養学部英語新カリキュラムの構想段階の議論の中で、「読み」を中心とする必修授業で総合的な読解力をつける一つの方法として、独自の語彙テキストを編纂してはどうかという発想が生まれました。語彙力は、「辞書を使った逐語訳からの脱却」に是非とも必要な力です。知らない単語に出会っても、前後の文脈から推測して、その先の文章を読み進めるといった習慣を身につけることも大切です。 編集チームの構成 このような趣旨のもと、教養学部の学生にふさわしいオリジナルな語彙テキストを制作するためのチームが編成されました。メンバーはいずれも駒場キャンパスで長年、英語の授業を担当している教員で、専門分野でいえば言語哲学、ヴィクトリア朝英文学、辞書学、シェイクスピア研究、言語学理論、アメリカ文化研究などで、出身地も日本、スコットランド、アメリカとこれも多様です。各自の英語に対する関わり方や感覚の違いを生かしつつ、また、ふだんの授業で感じている日本人学生の英語力の問題点について議論を重ねながら、本書の内容が次第に固まっていきました。 学内版による授業 この語彙テキストの前身は2008 年に A Handbook of AcademicVocabulary (通称 HAVOC)のタイトルで学内出版され、教養学部1、2 年生を対象とした多くの授業で使用されました。本書の中に明らかに大学生を意識しているような書き方があちこちで見られるのは、こうした出発点からくるものです。学内版テキストに対しては、教室の学生たちからはもちろん、担当教員からも多くの建設的なフィードバックがあり、さまざまな形でその後の編集作業に生かされました。 * 各章の構成 本書は小さな項目に分かれており、どこからでも学習ができるように編集されています。各章の構成とそれぞれの役割につい、順番に説明しておきましょう。 見出し語・発音記号・英語 I テキスト引用箇所 各章の冒頭には、その章で取りあげた20 の見出し語をまとめて配置してあります。見出し語の横に発音記号を付けましたが、これは国際音声記号(International Phonetic Alphabet, IPA)を使用しています。同じ語に複数の発音がある場合は、それらもある程度併記しました。さらに同じの右端に上記の On Campus (OC と略記)あるいは Campus Wide (CW)で見出し語が最も典型的に使われている箇所を、そのページ行の番号で記してあります。 語 意 さらに次の行には、見出し語をアクセントの位置を示した形で表記し、そのおおよその語意を英語で説明しました。語の定義については一般的な辞書類に必ずしも依拠しておらず、また多義語の意味を網羅することも避け、特に大学生が知るべき重要な点を強調する形で独自の説明を加えました。 派生語・関連語 主要な語形変化、派生語、関連語を品詞分類を付して紹介し、見出し語から出発して、さらに語彙の知識を広げることをめざしました。 例文と和訳 各項目には、見出し語一つに対して、原則として二つの例文が挙げられています。例文の作成に際しては、特にアカデミックな文章におけるその言葉の使われ方を意識しました。これに和訳をつけるべきか否かも編集段階でずい分と議論しましたが、読者の便宜を考えて日本語の自然な訳をつけることにしました。一般に大学受験生は英文をその構文どおりに日本語に置き換えようと苦心しますが、ここでは、「この英文の意味内容を日本語で表すとしたら、こういうことになるだろう」という姿勢を基本としています。 綴 り 見出し語、派生語、関連語、例文では原則的に米国式スペリングを使用し、必要な場合は英国式を併記しました。 日本語による解説 見出し語について、日本語による数行の補足的解説を加え、その語のニュアンス、イメージ、語源、類語、反意語などを紹介しています。その語がもつ独特のパーソナリティのようなものに関心を向けて、語彙に対する感覚を磨こうというのがその趣旨です。 語彙のクロスレファレンス 本書で扱っている 280 の見出し語には、互に関連の深い単語が多く含まれています。「この単語を使えるようになったら、こちらの単語にも目を向けてみよう」という読者のために、多くの項目では、解説の最後で括弧の中に、見出し語に関連した単語が登場する別の項目やコラムを示してあります。同じような意味合いの語彙、関係はあっても使われ方に違いがある単語、あるいは見出し語と対照的な意味の単語などを紹介しています。あちこち寄り道をすることで、語彙の世界がさらに豊かなものになるでしょう。 例 題 各章では、 5 つの項目のあとに復習用テスト Review が設けられています。そこまでで学んだ 5 つの見出し語を、必要なら語形を変えて空所に入れるというのが基本的な形式です。これが各章に 4 つあり、途中で息継ぎをするという意味もあります。そして最後にその章で学んだ 20 語全体について、定義のポイントの確認、英作文などを内容とする Unit Review があります。 章末コラム 各章の最後に登場するのは読み物に近いコラムで、その章の特定の語の使われ方について掘り下げたり、周辺の関連語彙に関心を広げるためのページです。特に知っていると役立つ語源についての話、類似した単語の間の微妙な違い、主語や動詞など文章の各要素のつながりなど、豊富な語彙力を身につけ、質の高い英語論文を作成するのに有益な事柄を満載しています。 * 好奇心の効用 本書にはあちこちに猫のキャラクターが登場します。知的好奇心は学習にとって最も大切なものであり、猫の柔軟性も見習いたいところです。章末コラムの他に、本文の中でも「こちらの項目を参照」という場合に猫( )が登場します。名前は「ミヨ」、英語では Meow と綴ります。 解答例 各章の例題に対する解答例を巻末にまとめました。受験勉強とはやや異なり、本書の問題には複数の正解がある場合も多く、また「この単語の方が適切だが、こちらも可能だ」という語彙選択の幅も示してあります。 単語索引 巻末に本書の見出し語と派生語・関連語をすべてアルファベット順に配列してあります。それらが見出し語として扱われている本来の章および項目の番号に加えて、他の箇所でも使われている場合は、その章と項目やコラムの番号も記しました。見出し語 280 語がいかにさまざまな文脈で使われるのかを発見していくのも、本書を学習する楽しみの一つといえるでしょう。 写真・図版 各章には、例文や解説に出てくる人物や事柄に関連した写真や図版が掲載されています。その多くは Wikimedia Commons の資料を使わせていただきました。英語の総合力をめざして 基本的な語彙の一つ一つを自分で実際に、また正確に使えるようになれば、リーディングそのものの力だけでなく、英語の総合力を強化する道にもつながります。その第一歩として、本書が少しでも役立つことができれば、制作に携わったメンバー全員にとって、これ以上うれしいことはありません。 最後になりましたが、過去数年にわたる編集の全過程を通じて寄せられた同僚からの貴重なアドバイスと協力に、そして本作りを進めていくうえで創意工夫を重ねてくださった東京大学出版会編集部の後藤健介氏の心強いパートナーシップに、改めて感謝の意を表します。
プロローグOne
[コラム] 主張の濃淡 Claimer vs. Claimer
Two
[コラム] 多義語の用法 Usage Conditions
Three
[コラム] 行為・行動に関する語彙 Clear for Action
Four
[コラム] 能力に関する語彙 Capacity Unh4mited
Five
[コラム] 英単語の起源 Ancient Origins
Six
[コラム] 仮定・解釈に関する語彙 Guess What?
Seven
[コラム] 主語と動詞の相性 Compatible Subjects
Eight
[コラム] 時に関する語彙 A Matter of Time
Nine
[コラム] 定冠詞のザ・規則 The Definite Article
Ten
[コラム] 接頭辞入門 A Prelude to Prefixes
Eleven
[コラム] 証拠の確実性 Certain Uncertainties
Twelve
[コラム] 英文和訳から翻訳へ Transformational Translation
Thirteen
[コラム] 言語使用域と語彙 Cash In on Register
Fourteen
[コラム] 変わりゆく要注意表現 Speaking of the Unspeakable
解答例 Suggested Answers単語索引 Vocabulary Index
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