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東京大学大学院 農学生命科学研究科
生産・環境生物学専攻

植物におけるメタボローム解析と手法確立

 メタボローム解析は近年、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームなどとともに、生命現象を理解する手法として幅広く利用されています。当研究室では特に極性低分子(アミノ酸、カルボン酸)の網羅的な解析に利用されてきているキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いて、 解析手法を確立しつつ、イネ、バレイショ、ダイズなどの植物試料でのメタボローム解析を行っています。

キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いた極性低分子の測定・解析系の確立

 メタボローム解析においては、アミノ酸類と陰イオン性カルボン酸類の両者の解析が望まれますが、通常CE-MSでは両者の解析には異なった種類の泳動液、または異なる種類のキャピラリーが必要です。1台のCE-MS装置の場合、これらの交換と保管および交換に伴う安定化の作業が必要となります。
 当研究室ではCE-MSでのアミノ酸類の測定に広く使用されているギ酸等の酸性泳動液を用いた順方向電気泳動(試料導入側を+極、MS側を−極)での測定系を発展させ、質量分析に必要なシースガスの高い吸引力を有効に利用することで陰イオン性物質の測定を可能としました。これによりキャピラリーや泳動液の交換の必要ない、アミノ酸および陰イオン性カルボン酸の連続解析が可能となりました(Wakayama et al. 2010)。


植物試料でのメタボローム解析による機能評価

・グルタミン酸脱水素酵素(GDH)イネの代謝機能評価
 イネは根から吸収したアンモニウムをグルタミン合成酵素(GS)によってグルタミンに同化しています。一方微生物ではアンモニウムと2-オキソグルタル酸をグルタミン酸脱水素酵素(GDH)によってグルタミン酸に同化する経路も有しています。植物における窒素同化系の向上を目指して、微生物がもつGDHを高発現させたイネを用いて窒素吸収後の代謝物の経時的な変化をCE-MSで解析しました。その結果、根ではGDHの基質となる2-オキソグルタル酸はGDH高発現イネでは常に不足していることが分かりました。GSの阻害剤を加えて通常の窒素同化を抑制させると、野生型のイネの根では新たな窒素同化が行われず、2-オキソグルタル酸が蓄積するのみでした。一方、GDH高発現イネでは、グルタミン酸が新たに作られ2-オキソグルタル酸が低濃度になっていました。これらのことから、新たに導入されたGDH遺伝子は従来の窒素吸収・同化に付加的に貢献していることが明らかとなりました(Abiko et al. 2010)。


棚田

東京大学農学部 作物学研究室
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Last Update : 2016.4.27