植物および酵母のアルミニウム耐性に関する研究


 世界の農業利用可能地の約40%が酸性土壌であり、植物の生育を著しく阻害する強酸性土壌は約30%に達すると言われています。
 酸性土壌で植物の生育が阻害される主な原因となっているのが、アルミニウムイオンです。
 これまでに植物のアルミニウム耐性機構として、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸の分泌、アルミニウムイオン取り込みを抑制するBCB遺伝子ファミリーの存在、細胞内アルミニウムイオンの排出に関わるGDI遺伝子ファミリーの存在などが明らかになっており、中でも有機酸によるアルミニウム毒性の緩和が効果的と考えられています。
 よって、アルミニウム毒性を緩和する新たな有機酸を探索することは、意義のあることと言えます。

 本研究室では、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeをモデル生物として、そのアルミニウム耐性機構の解明、さらにそれを応用したアルミニウム耐性植物の創製を目指しています。

 そのために
遺伝子工学的手法
分析化学的手法
を用いて、多面的に生命現象を追いかけています。


S. cerevisiaeの分泌するアルミニウム溶解活性物質の構造決定

 

 S. cerevisiaeの培養液上清中にアルミニウム溶解活性が存在し、その溶解活性を指標としてアルミニウムイオンのキレート物質を単離しました。
 NMR、MSを用いた構造解析の結果、この物質を2-イソプロピルリンゴ酸(2-iPMA)と同定しました(Kobayashi, A. et al., J. Inorg. Biochem. (2005) 99: 1260-1263)。


2-iPMAの構造式



 2-iPMAはロイシン合成経路の中間物質で、クエン酸経路以外の経路の中間物質がアルミニウムイオンをキレートしていることを初めて明らかにしました。



ロイシン合成経路



2-iPMA-Al(III)複合体の構造解析

 

 NMR、DOSY、MSを用いた解析により、主要な2-iPMA-Al(III)複合体が、2-iPMA四つとアルミニウムイオン二つから形成されていることを明らかにしました(Tashiro, M. et al., J. Inorg. Biochem. (2006) 100: 201-205)。

 


 

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