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光励起状態における芳香族性、初のエネルギー論

「芳香族性」は有機物質の安定性を考える上で最も重要なコンセプトの一つである。基底状態においてそれはHückel則として表現され、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系分子が平面構造を安定化する事を合理的に説明できる(例:ベンゼン)。一方光励起状態における芳香族性はBaird則として表現され、4n個のπ電子をもつ環状共役系分子が平面構造を好むようになる。しかしながら、Hückel芳香族性の安定化効果に関してはこれまで実験的な見積もりが種々行われてきたにも係わらず、Baird芳香族性の安定化効果に関しては報告例が無かった。

 今回我々は、中心に4n個のπ電子を持つ環状オリゴチオフェンの環反転速度を利用することで、Baird芳香族性の安定化効果を初めて実験的に見積もることに成功した。この成果は、基礎有機化学における一つのマイルストーンとなるだけでなく、有機光化学と関連する材料化学に新しい展開を導くものである。