Uchida Group

Department of Basic Science, School of Arts and Sciences, The University of Tokyo

About research

多孔性材料は近年様々な応用がなされており、特に金属有機構造体(MOF)やゼオライトは活発に研究がなされています。MOF やゼオライトは高い構造安定性をもつことが特徴としてあげられます。しかし、構造が強固であるため、吸着特性に必要な構造柔軟性を持ち合わせていません、そこで本研究室では新たな多孔性材料として多孔性イオン性結晶(PICs)を研究しています。PICs はイオン結合由来の MOF やゼオライトが持ち得ない構造柔軟性をもち、また酸化還元特性を持つ多孔性材料として様々な応用が考えられます。
多孔性イオン性結晶(PICs)はマクロカチオンとポリオキソメタレートを含むマクロアニオンが静電相互作用によって集積化したものであり、一般的なイオン性結晶と比べて空隙率が高いという特徴を持っています。このような性質により、PICs は空隙を利用して分子やイオンの吸着・輸送・変換場として利用できます。
ポリオキソメタレートの電荷、マクロカチオンの配位子、金属イオンのサイズや電子配置、 をパラメーターとして変化させることで結晶性固体の構造・機能の精密制御を行うことができます。我々の研究室では様々な POM を用いた PICs が合成されており、それに伴って様々な性質を持つ結晶性複合体を作成しています。
これら合成された PICs は吸着特性、触媒能を持つことがわかっており、これを利用して水吸着、二酸化炭素吸着、酸化触媒、水素発生触媒など様々な実用材料としての応用がなされています。具体的には、アルミニウムクラスター(Al13)をカチオンとした PICs を酸化触媒として応用したり、クロム錯体を構成要素とする酸素発生触媒の開発などを行っています。また、POM に対する修飾の研究も行っており、アンダーソン型 POM に有機配位子を修飾することで物理的性質にどのような変化が生じるのかを研究しています。

PICs とは多孔性イオン性結晶のことで、マクロカチオンと POM を含むマクロアニオンが静電相互作用により集積化したイオン性結晶です。結晶性固体の中に、 分子サイズの「空間」や「空隙」が構築できれば、そこが、 分子やイオンの吸着・輸送・変換場となりえます。 下図に示すように、ポリオキソメタレートの電荷、マクロカチオンの配位子、金属イオンのサイズや電子配置をパラメーターとして、結晶性固体の構造・機能の精密制御を行います。

PICsの構造・機能制御

PICs as a template for metal cluster synthesis

ごく僅かな数の金属原子の集合体である金属クラスターは、無数の金属原子の集合体であるバルク金属とは異なり、サイズ(構成する原子の数)依存した物理・化学的な性質(触媒活性・発光特性・磁気的特性等)を示すことから大きな関心を集めています。
我々は PIC を鋳型として用いて、金属クラスター合成を行っています。PIC は酸化還元活性を有する多孔性材料であり、PIC の酸化とカップルした金属イオンから金属クラスターへの還元的な合成を可能とします。また PIC の酸化還元状態を精密に制御することで、金属クラスターのサイズおよび、それに付随した発光特性を制御することができます。PIC の細孔中に金属クラスターを閉じ込めることで、保護配位子を用いることなく、金属クラスターを空気中で安定化させることも出来ます。

金属クラスターの合成

Development of crystalline proton conductors

近年カーボンニュートラルの実現に向けて、化石燃料に依存しない発電方法が求められています。燃料電池は、水素と酸素のみを原料に用いて、水のみしか排出しない環境に優しい発電方法です。燃料電池は温度や用途に応じて、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などの様々な種類の燃料電池が開発されていますが当研究室では、自動車などに搭載される固体高分子型燃料電池に注目しました。

固体燃料電池の概略

固体高分子型燃料電池は、水素がプロトンと電子に解離する反応が起こる燃料極、運ばれてきたプロトンと酸素が結びついて水が生成する反応が起こる空気極、プロトンを燃料極から空気極へと輸送する役割を果たす電解質の三つの要素から成り立っています。電解質は燃料電池の性能向上の鍵を握っており、プロトンを輸送するのでプロトン伝導体と呼ばれています。我々はこのプロトン伝導体の性能向上を目的として研究を行っています。プロトン伝導体に求められる特徴は大きく分けて二つあります。一つ目は高いプロトン伝導性を持つことです。二つ目は、液漏れや腐食を防ぐため、固体のプロトン伝導体であることです。

ナフィオンの構造式

現在、パーフルオロカーボン材料のナフィオンが電解質として普及しています。ナフィオンは室温加湿条件下で、7.8×10-2S/cm という高プロトン伝導性を有していますが、フッ素系の化合物であることに加え、スルホ基を有しているため脱離が起こり Sox が発生する危険性があり、環境負荷が大きいという欠点が存在します。それに加えてアモルファス材料であるため、プロトン伝導機構が不明瞭です。効率的なプロトン伝導体の開発には、プロトン伝導機構の解明は必要不可欠です。

より効率的なプロトン伝導体の開発にあたり、当研究室ではポリオキソメタレート(POM)に着目し研究を行っています。POM は嵩高い構造を有しており、末端酸素原子の周囲に負電荷が非局在化し、表面電荷密度が減少するので高いプロトン伝導性を示します。
POM と無機カチオンからなるイオン結晶の代表的な例として、Keggin 型ポリ酸の酸性塩が挙げられます。室温加湿条件下で、P をヘテロ原子として中心に有するホスホタングステートは 1.7×10-1、Si を中心に有するシリコタングステートは 2.7×10-2 S/cm であることが知られています。しかし、高プロトン伝導性は高温高湿条件下に限られ、低湿条件下で伝導性が著しく低下するという問題があります。そこで最近では、イオン結晶の細孔内にポリマー分子を導入することで、分子運動性や水に代わるキャリアとしての役割を持つポリマーを導入し、外部湿度に頼らないプロトン伝導体の開発を目指しております。

Synthesis and function exploration of PICs

当研究室では、アニオン性の無機金属酸化物クラスターの一種であるポリオキソメタレート(POM)を構成ブロックとする多孔性イオン結晶(Porous Ionic Crystals; PICs)を研究対象としています。多孔性イオン PICs が有するナノスケールの空間を分子やイオンの貯蔵・輸送・変換場として活用することで、機能性材料への展開を目指しています。PICs の代表的な応用例の一つとしては、固体触媒が挙げられます。これまでに我々は PICs を固体酸として用いることで、pinacol 転位反応やアリル化反応等の典型的な酸触媒反応だけでなく、バイオマスの一種であるフルクトースを 5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)に変換する実用的な酸触媒反応までも効率的に進行させることを見出してきました。最近は酸触媒反応だけでなく、PICs を触媒とした固体塩基反応(knoevenagel 縮合等)や電極反応(OER 反応等)にも精力的に取り組んでいます。

PICsの合成と機能の開拓

Equipments