ハイパーラマン分光法とは?
ハイパーラマン分光法は、赤外分光法・ラマン分光法では得られない分子構造に関する情報を得られるユニークな分光法です。ラマン分光法子では入射した一光子が、分子振動のエネルギー分だけずれたエネルギーを持つ一光子となって散乱されるのに対して、ハイパーラマン散乱では、入射した二光子に対して、一光子が散乱されます。
ハイパーラマン分光法は、レーザーが開発されたのち1965年にMakerらによって水の測定が行われ、その後いくつかの測定が行われて興味深い結果が得られていたものの、信号光が非常に微弱(通常微弱といわれるラマン散乱光の1/10,000から1/100,000倍)であるため、測定が非常に困難でした。
赤外吸収・ラマン散乱・ハイパーラマン散乱のエネルギーダイアグラム
本研究室では…
しかし近年、レーザー技術の発達により、その測定が可能になってきました。本研究室では、その可能性にいち早く着目し、ハイパーラマン分光法による新たな分子科学的研究を行っています。自作のハイパーラマン分光装置で世界でも最先端の測定系を実現特に、し、液体や溶液中の分子構造やダイナミクスを研究しています。
- ハイパーラマン分光の基礎研究(有機液体の測定の論文 アルコールの測定の論文、ベンゼン&ピリジンの測定)
- 水素結合系への応用(液体水の測定, 塩酸の測定)
- 生体分子への応用
を軸とした研究を発展させていく予定です。
研究室の自作ハイパーラマン分光装置。左のようにバラックでしたが、だんだんと洗練され、515 nmの分光装置の検出部は右のようになっています。試料部は精密な温度調整可能です。
ハイパーラマン分光に使用していたピコ秒レーザーCepheusが故障しているときにハイパーラマン分光を行うため、フェムト秒の515 nmを4f filterを用いてスペクトルを切り出し、ピコ秒狭帯域の光としています。透過回折格子を用いることで、高効率にフェムト秒の光をピコ秒に変換しています。
532 nm 励起ハイパーラマン分光による論文
水の伸縮振動のvibrational coupling
The Journal of Physica Chemistry Letters, 14, 3063-3068 (2023).
高濃度HCl水溶液のHRおよびその溶液中の光化学反応
Journal of Raman Spectroscopy, 53, 1679-1685 (2022).
シクロヘキサン液体の対称性とHR
Chemistry Letters, 50, 8, 1512-1515 (2021).
アルコールのIR, Raman, HR
Journal of Raman Spectroscopy, 52 849-856 (2021).
水の変角振動のvibrational coupling
Nature Communications, 11, 5977 (2020).
1064 nm 励起ハイパーラマン分光による論文
ベンゼンおよびピリジンのvibronic coupling pathway
Journal of Chemical Physics 157 (5), 054505 (2022).
N-methylacetamideのアミドバンドのHR分光
The Journal of Physical Chemistry Letters,12 (20), 4780–4785 (2021).
アセトン・DMSO・クロロホルムなど基本的な有機液体の世界初のHR
Journal of Chemical Physics, 152, 174202 (2020)