微生物による地球規模の窒素サイクルの化学的制御

現在70億人を超える地球の人口を支える食料生産は、フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュが1906年にドイツで開発した窒素固定反応(ハーバー・ボッシュ法)によって大量に生産される窒素肥料のおかげでなりたっています。近年、ハーバー・ボッシュ法により生産された化学肥料を元に、土壌中の微生物がおこなう嫌気呼吸である脱窒により、大量の亜酸化窒素(N2O)が発生していることがわかってきました。亜酸化窒素は極めて強力な地球温暖化ガスであることから、いずれ二酸化炭素に匹敵する環境破壊の脅威がもたらされることが懸念されています。特に陸上の耕地から放出される亜酸化窒素の大部分は、糸状菌(カビ)が原因であることが明らかになりつつあります。嫌気性細菌による脱窒とは異なり、カビは脱窒の最終酵素である亜酸化窒素還元酵素(N2OR)を持たないため、最終生産物が亜酸化窒素です(図1)。従って圃場からの亜酸化窒素の発生を抑止するためには、カビによる脱窒を抑制する必要があります。私たちの研究室では、化合物スクリーニングによりカビによる脱窒の阻害剤を見出すとともに、未だ不明な点が多いカビの脱窒について、分子生物学的手法を主体とした研究により、詳細な分子メカニズムを明らかにし、より効果的な脱窒抑制法の開発に結びつけるための研究を行っています

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